ただ、愛が欲しかった。- fourth story -

150. ページ16

「最近蓮二に避けられてる気がする」


千恵に話があると言われたAは、千恵の家に来ていた。


「え、」


Aが戸惑う理由は１つ。

(今まで気付かなかったんだ)

柳が千恵を避けているのは、よく見ていればわかる。
ほとんどの面々は女子という理由で距離を置いているのだと思っているが、実際はそうではない。

抱える感情が、“それ”だと気付きたくないからだ。


「なんか、絶対２人きりにならないようにするっていうか、後なんか冷たい」

「そ、そっか」


このタイミングで言われても、Aが答える術はない。

答えを教えるのは簡単だが、それでは何の解決にもならない。

柳が自らの意志で自身の気持ちを認め、前に進むしかないのだ。

たとえ大事な人を傷つける結果になったとしても、誰も傷つけない恋愛などないのだから。

それが、自分の選んだ道なら、仕方ないで済ますしかない。



「もうどうすればいいかわかんない」


告白する、そう決意したはずの千恵は、再びぶれ始めているらしい。


「明日、もし自分が死ぬとしたらどうしたい？」


Aはポツリと問いかけた。


「え？」

「それが千恵にとっての答えだよ」


人は自分の行動によって、いくらでも前に進める。
欲しいものだって大抵のものは手に入る。

要は本人が決断し、行動するか。

それができない者に、明日を見る資格はない。



唾を静かに飲み込んで、千恵の口が開くのを待つ。




「私が明日死ぬなら……蓮二といたい」


膝に手を置いて、絞り出すように告げた千恵。

Aにはそれが太陽のように見えた。

近づけば火傷してしまうけど、いつでも自分を照らしてくれる。

目を開けていられないほど眩しくて、痛みを忘れてしまうほど暖かかった。



「なら、行動しなきゃね」


千恵の幸せを願い、Aは笑う。



自分が明日死ぬなら……と考えて、そして答えが出る前に彼女はその議題を放棄した。






.

151.→←149.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す