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148. ページ14

ある夜のこと。

幸村は、ある人物を待っていた。

視界には錆びついたブランコが映り、生暖かい風が頬を撫でる。
空に視線を向けてみても、星1つ拾えない。

変化のない景色に飽きたところで、やっとその人物が現れた。



「幸村さん」


少しだけ鋭さのある声。
目を合わせれば澄んだ瞳に幸村が写り込む。
ラケットを背負った財前が、闇夜の下立っていた。


「すまない、呼び出したりして」

「いや、大丈夫っす。
俺も話したいことあったんで」



軽く言葉を交わした2人は、どちらからともなくブランコに腰をかける。

ギィと軋む音がして、それに苦笑を浮かべた幸村はそっと空を仰いだ。



「Aのこと、お願いします」


流れる空気と同じ速さで鼓膜に届く声。
幸村はぴくりとも反応せず、瞬きだけを落とした。


「どうして、俺に頼むんだい?」


いつかも打つけた、その疑問。
幸村は感情を悟らせない横顔で、少しだけブランコを揺らす。


「幸村さんならあいつを守ってくれると思ってるからっすよ。
だって幸村さん、あいつのこと好きですよね」


ギィと軋む音が再び響いた。
風を切るように、空を隠すように。

幸村は笑った。
音もなく静かに弧を描く唇、前髪で隠れた瞳が見えず、心情などはかれない。


「好きじゃないよ」


あの時、病気を知った時、消し去った感情。
ただの一度も口にせず、葬った拙い二文字。

知らないことが、どれだけ滑稽で、どれだけ幸福か、財前を見て幸村は思った。

Aの真実なんて知らずに、彼のように気持ちを告げられたら……と。

Aと幸村は、どこか似ている。


「そう、ですか」


財前は見えない幸村の感情を、悟ることを諦めて自身の両手をきつく握った。




「君はAのことを理解しているんだと思っていたよ」

「え?」


唐突に投げかけられた言葉に、財前は瞳を少し大きく広げる。
意味がわからない、そんな様子で。


「わからない?
君は何もわからないんだね」



財前は何も知らない。
Aの病気も、Aの気持ちも、何もかも。

幸村はそれが羨ましくもあり、酷く遺憾に思っていた。

知らない、そんな言葉で片付けてしまえば、どれほど楽だっただろう。

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SHINO(プロフ) - スノウさん» スノウ様!いつもコメントありがとうございます。スノウ様のコメントは本当に何度も読み返してはニヤけてしまって、とても力をいただいています。そうですね、私も主人公の気持ちをやっと書けたので嬉しいです。笑 どうか最後までお付き合いください。 (2017年4月20日 15時) (レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - 雪さん» ありがとうございます。気をつけている事に気付いてくださって嬉しいです。fifthの表紙もありがとうございました。申請を出したので使わせていただきます!これからどのような展開になるかは秘密ですが、楽しんでいただけると嬉しいです。ありがとうございます。 (2017年4月20日 15時) (レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)
スノウ - おつかれさまです!ついに主人公ちゃんから好き、という素直な気持ちが聞けて嬉しいのと同時に、これから彼女がどのように生きていくのか、不安なような楽しみなような。続編待ってます(^^*) (2017年4月18日 23時) (レス) id: 9bbfe87ee5 (このIDを非表示/違反報告)
- お疲れ様です。続編も楽しみにしています。SHINOさんの花火を空が泣くと表現するところや、情景は目に浮かぶのに感情は明かさないようにするところとか本当に好きです。これからも頑張ってください。 (2017年4月18日 20時) (レス) id: 41f82b2237 (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - Yさん» コメントありがとうございます!儚さは私の意識している点でもあるのでとても嬉しいです。終わりを残念だと感じていただけるような作品をかけてよかったです。ですが、まだ終わりそうもないので引き続きお付き合いください。笑 応援、本当にありがとうございます。 (2017年4月16日 16時) (レス) id: cc409903fa (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:SHINO | 作成日時:2016年9月8日 17時

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