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story12 ページ13

何人ものメイドや執事で溢れかえる屋敷であっても、そこにあるのは寂しさだけ。

私は出迎えの声に返事1つしないで自室へ入った。


「無駄に広い部屋」


いつ見ても、この部屋の広さにはため息がでる。

こんなに広いのにあるのは、ベッドと机だけ。

生活感なんてまるでない。

広々とした、冷たい部屋。

私1人が寝るには広すぎるベッドに倒れ込むように飛び込んだ。



『惚れたんだよ、お前に』

『生憎俺様はお前から離れるつもりはねぇよ』

『俺様には、お前が『助けて』って言ってるようにしか聞こえねぇ』


思い出したくもないその声が、脳裏を掠めて仕方ない。

聞きたくないのに。

耳を塞いでも木霊する声が泣きたくなるほど痛い。



「跡部景吾……」


無意識に声が零れた。


「入るぞ」


木霊する彼の声を遮るように、父の声が滑り込んできた。

その声に私は何よりも従順なようで、頭よりも先に体が反応した。


体を埋めていたベッドから一瞬にして起き上がり、身なりを整える。

そして扉が開くのと同時に頭を下げた。


「お父様、おかえりなさい。
どのようなご用件でしょうか」

「顔を上げろ」


その声でやっと私は父を瞳に映した。

何週間ぶりだろう。

だけど懐かしくはない。

日に日に黒く染まっていく父の瞳は見飽きたから。


「明日、このホテルへ行け」


手渡されたメモには、ホテルの名前とその住所が示してあった。

ああ、なるほど。

滅多に顔を出さない父が私の部屋にくるのは、縁談のことくらいだ。

つまり、お見合い。


「お相手は?」

「忍足グループのご子息だ」※

「忍足グループと言えば大学病院の?」

「ああ、そうだ。
うまくやれよ。
忍足グループのご子息は跡部財閥の御曹司と親交が深いらしいからな。
これがうまくいけば、跡部財閥との取引を進められる」

「わかりました」


忍足グループの子息。

忍足侑士か。

何度か見た事があるけど、関わったことは一度もない。

そして、跡部財閥。

聞きたくもない、その名前。


「失敗するなよ」


父はそれだけ言うと、もう用は済んだと言わんばかりに部屋を去っていった。

その言葉にどんな意味が込められているか、わからない私ではない。

どんな手を使っても、成功させてみせる。

私は、父が置いていった山積みの資料に、手を伸ばした。







※忍足グループは作者の考えた架空ネタです。

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SHINO(プロフ) - 菫-sumire-さん» ありがとうございます。こんな私に憧れる要素があるか、わかりませんが、ありがたいです。本当に未熟で、読みにくい部分もあるかと思いますが、皆様に納得していただけるように頑張りたいと思います。とても温かいコメントをありがとうございました。 (2016年2月7日 13時) (レス) id: e7993006ee (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - 梅田さん» ありがとうございます。キャラの特徴や性格は私なりに研究していたつもりです。なのでそう言っていただけると本当に嬉しいです。氷帝にとって跡部さんは絶対的な存在だと思うのでそれを表現できていてよかったです。素敵なコメントをありがとうございました。 (2016年2月7日 13時) (レス) id: e7993006ee (このIDを非表示/違反報告)
菫-sumire-(プロフ) - SHINOさんの小説、影から読ませていただいておりました。憧れるところなんて正直言い切れません.....他のどの作品も楽しみにしています。 (2016年2月7日 12時) (レス) id: dbfe85220f (このIDを非表示/違反報告)
梅田(プロフ) - それぞれのキャラの特徴を良く捉えた上での跡部至上主義な発言がとても好きです。とりあえずの完結、おめでとうございます。続編も楽しみにしてます。SHINOさんの作品ですから、SHINOさんのペースで進めてください。一ファンとして影ながら応援しております。 (2016年2月7日 11時) (レス) id: 78d0f2e1a4 (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - ゆっきーさん» 返事がおくれてすみません!続きを楽しみにしていただけるのは、作者として本当に嬉しいです。ワクワクドキドキしていただける展開にしていきますので、よろしくお願いします。素敵なコメントをありがとうございました。がんばります! (2016年1月25日 22時) (レス) id: e7993006ee (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:SHINO | 作成日時:2014年7月26日 13時

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