幼馴染武勇伝【幸村様誕生記念企画】追加SS

幼馴染16 ページ16

精市が珍しく目を見開いたような気がした。


泣き顔がそんなにひどいか。

なんて、毒を吐く余裕もない。



グイッと涙を拭って、その場を駆け出す。



もしかしたら、熱が出るとキス魔なんじゃなくて、
本当は意図的にやってたんじゃないだろうか。


好きな男の子の前でされたし、
ただの嫌がらせだったんだろう。



1人で意識して、馬鹿みたい。


あんなの、ただの肌と肌の接触。



感情がないキスなんて、キスじゃない。




「Aっ」



珍しく焦った、精市の声が聞こえる。

こいつは運動もできちゃうから嫌だ。

すぐに追いつかれる。



「待ちなよっ」



うるさい、ほっといてよ。

もう、やだ。


精市なんて、本当にハゲちまえ。



再び腕を掴まれて、動けない。

抵抗しても無駄なことくらい分かってるから、
ただじっと下を向く。





「なんで泣くの？そんなに俺が嫌なんだ」



自嘲気味なその言葉。

それは私の台詞だっての！



「……」



駄目だ、今声だしたら、泣いてしまう。

こんな妄想ハゲの前で誰が泣いてやるか。



ギリギリと腕に込められた力。

痛いくらいのそれは、精市が男なんだと再認識させる。




「ねぇ、なんか言ったら？
俺の顔も見たくないって？」


「……」



ああ、そうだよ。

同じ空気も吸いたくない。



唇を無意識に噛みしめる。




「はぁ、ただのおふざけじゃないか」



呆れたように言葉を零す精市。

“おふざけ”……か。



そうだよね。




「おふざけって何！？
ふざけんな！アンタと違って私は経験豊富じゃないっての！
大体、私はアンタのおもちゃじゃない！
嫌がらせするのもいい加減にしてよ！
私が嫌いなら、そう言えば！？
もう精市なんかハゲちまえ！」





ああ、駄目だ。


もう涙とまんない。

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