ただ、愛が欲しかった。- fifth story -

216. ページ36

幸村精市side





「Aごめん。
俺、いや俺たち全部知ってるんだ」

「え？」


あいつらどれだけ千切ったんだ。

紙の雪が今も降り続ける。



「君の病気のこと知ってたんだ」


俺はあの日、保健室で知りたくない事実を知ってしまった。

Aがもうすぐ死ぬということを。
この冬を彼女と一緒に過ごすことはもうできないということを。


そして俺は屋上で雪を降らせる彼らに伝えた。








＿＿＿＿＿＿＿＿3ヶ月前の事



「幸村、これはどういうことだ」

凍えるような寒さの屋上に蓮二に呼び出された。


見せられたのは小さな薬。


「なに、それ」

その薬の名前は知っていた。

保健室の先生から聞かされていたから。


それは確かにAが飲んでいる薬だった。



「Aが落としていった。
この薬は重病患者が飲む薬だ」

普段穏やかな蓮二の表情に少しの焦りと苛立ちが含まれている。

彼は頭がいい。

きっともう全て気付いている。


「お前の最近のおかしな行動。
クレープや花火や海も。
そしていつまでも進路を決めない事。
俺の仮説が正しいならば全てに納得がいく」


俺と同じ苦しみを蓮二に与えるのか？

もう俺は部長じゃない。
だけど、蓮二は俺にとってかけがえのない仲間であり、大事な友達だ。

その彼に。


「れん、じ」


言いたくないんだよ。



「Aは病気なのか？」



お前にこの重みを与えたくないんだよ。

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