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214. ページ34

冬の空の下。

コテージのすぐ横。


辺りは静まりかえり、彼女たちは沈黙を撫でた。



「......」


いつまでもいつまでも返事は返ってこない。

その代わり、地面に落ちたのは水滴。


Aはハッと顔を上げた。




「ねぇA」


幸村は笑っていた。

頬を滑ったたった一粒の涙などなかったことして。







「雪、降るよ」





ふわりと笑みを残した幸村は、左手で、空を仰いだ。





「え?」





『俺が全部、叶えるよ』

声にならなかった言葉が、風に乗り、天を舞う。






かさり、頬を何かが掠めた。

視界に映るは白、白、白。





「ゆ、き?」




そっと手を差し出せば、それはそっと手の平に舞い降りて、溶けることなく視界に残った。

冷たさもない、それが何なのか、一目でわかった。




「ばか、じゃないの……っ」


足元に降り積もっていくそれは、自然でできた雪ではない。





“誰か”によって大量に千切られた、純白の紙切れ。






「みんな、早く千切って!」

「柳先輩、全然足りないっす」

「そのようだな、急ごう」

「ジャッカル、はやく千切らんと追いつかんぜよ」

「お前もやれよっ」

「ほらジャッカル、指が止まってるぜぃ」

「お前ら、指示通りに動かんか!」

「まぁまぁ真田くん、落ち着いてください」


頭上から聞こえる、耳に馴染んだその声。
この一年、嫌というほど聞かされてきた。


______どうして、こんな。




「こんなのっ、こんなの……っ」


“ゆきじゃない”

声にならない想いの代わりに、溢れ出た無数の涙。


足元に散らばった“雪”たちが想いの数だけ降りしきる。



大切だった。
守りたいと思った。
傍に居たいと思った。
笑っていたいと思った。
消えたくないと思った。
ずっとずっとずっと。




「ほんっと…ばか……」


大好きだった。


簡単だと思っていた。

いつでも手放せると思っていた。




「こんなことされたら……っ」


もう全てを手放せない。

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設定タグ:テニプリ , テニスの王子様 , アニメ   
作品ジャンル:アニメ
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はる - めちゃくちゃ面白くて短時間で一気に読んでしまいました。更新待ってます^ ^ (2022年1月25日 4時) (レス) @page40 id: aae421ef6f (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 面白くて一気読みしました!とても心が動かされました。続きがあったら見たいです。お体に気をつけて。 (2021年3月20日 2時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
スノウ - 更新されてる〜!嬉しい!そして返信ありがとうございます!もう物語も終わりに向かっているようで、寂しいような、でもどんな結末になるか気になるような…複雑な気持ちです(笑)次の更新も楽しみです。こんなご時世ですので、お身体には気をつけて、ご自愛ください。 (2021年1月13日 2時) (レス) id: 4b5dbbee1a (このIDを非表示/違反報告)
yum(プロフ) - 久しぶりにお邪魔したら更新されていて、とても嬉しかったです。情景が浮かぶ描写、キレイなことば、涙があふれます。ただ、愛が欲しかった…本当に大好きです。 (2020年7月22日 15時) (レス) id: 59466218f8 (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - 名無し96398号さん» ありがとうございます!ご期待に添えるようにがんばります! (2020年6月22日 16時) (レス) id: 59abf06d02 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:SHINO | 作成日時:2017年4月5日 11時

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