検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:41,406 hit

209. ページ29

「前に話したこと覚えとるか?」

にんじんを握ったまま、仁王が尋ねる。

決してAの目を見ずに。


「なんの話?」

「消えるつもりじゃろう?と聞かんかったか?」

暖房は聞いているはずなのに、酷く寒かった。


「そんな話したっけ?」

惚けて見せても、意味などない。
けれどもそうするしかないのだ。
彼女はあまりにも嘘を吐きすぎた。


「今も、変わらんのか?」

全てを見透かすように仁王は言う。
否定も動揺も呑み込んで。

Aは諦めたようにそっと息を零して、都合よく鳴いたケトルをそっと止めた。


「変わらないよ」

変わりたかった。
彼らに触れることで、消えなければいけないという呪縛から解放されたかった。

「お前さん……」

そんなことできるはずもない。

何故なら彼女は嘘つきで、彼女は彼らを愛しすぎた。



「私は消えるよ」

きっとマサは誰にも言わない。
そんな確証があって、だからこそ言えた言葉。



「お前さんはそれでいいんか?」

何を聞いてるの?
彼女は呟く。

いいに決まってるじゃないか。

Aにとって彼らは大切で、大事で何にも代えがたい存在で、こんなにも心を許していて、好きで大好きで、愛しくて、空間全部をしまっておきたい。
そこまで思えた初めての存在だった。

そんな彼らにとって、自分という存在が何か。

彼女は知っていた。

“私が消えても何も変わらない”


知っているつもりでいた。



だから当然、これ以上一緒にいても傷つくだけで。

それがわかっているのに“彼ら”の中にいることを選べるほど彼女は強くない。



「指、気を付けてね」

ピーラーを握る仁王の指に瞳を這わせてAはそっと微笑んだ。

210.→←208.



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (310 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
826人がお気に入り
設定タグ:テニプリ , テニスの王子様 , アニメ   
作品ジャンル:アニメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

はる - めちゃくちゃ面白くて短時間で一気に読んでしまいました。更新待ってます^ ^ (2022年1月25日 4時) (レス) @page40 id: aae421ef6f (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 面白くて一気読みしました!とても心が動かされました。続きがあったら見たいです。お体に気をつけて。 (2021年3月20日 2時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
スノウ - 更新されてる〜!嬉しい!そして返信ありがとうございます!もう物語も終わりに向かっているようで、寂しいような、でもどんな結末になるか気になるような…複雑な気持ちです(笑)次の更新も楽しみです。こんなご時世ですので、お身体には気をつけて、ご自愛ください。 (2021年1月13日 2時) (レス) id: 4b5dbbee1a (このIDを非表示/違反報告)
yum(プロフ) - 久しぶりにお邪魔したら更新されていて、とても嬉しかったです。情景が浮かぶ描写、キレイなことば、涙があふれます。ただ、愛が欲しかった…本当に大好きです。 (2020年7月22日 15時) (レス) id: 59466218f8 (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - 名無し96398号さん» ありがとうございます!ご期待に添えるようにがんばります! (2020年6月22日 16時) (レス) id: 59abf06d02 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:SHINO | 作成日時:2017年4月5日 11時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。