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206. ページ26

「雪、降らないね」

何回目かもわからないその言葉を幸村が口にした。

コテージの暖炉の前。
他の面々が疲れて寝静まった後、幸村とAは静かに話していた。


「長野まできたのに、人口の雪かー」

Aが望んでいるのは空から降ってくる雪で、敷き詰められた人口の雪になどなんの意味もなかったのだ。

「私ってとことんついてないみたい」

悲しそうに笑う彼女に幸村は自分の無力さを嘆いた。


「まだ寝ないのかい?」

幸村は本当は寝ていたが、トイレに行く際に明かりに気付きこうして夜更かしをするAに付き合っている。


「今日もね、すごく楽しかった」

幸村の問いには答えずAが零した。
決して彼を見ず、暖炉の火だけを瞳に宿して。

そんな彼女に幸村は何も言えなくなった。


「1年くらいいや、もっとかな、みんなといるようになったの」

「そうだね」


どうして今、彼女はそんな話をするのか。

わかりたくない、その意味。

「最初はね本当に嫌いだったの。
嫌いと言うか、嫉妬していたんだと思う。
貴方たちにも千恵にも」

お互いを思い、とてもお互いを大事にしていたから。

そう寂しそうにポツリポツリと語るA。


「でもその中に入ったら、信じられないくらい満たされて、時間があっという間で。
本当に本当に大切になってしまった」

嬉しいはずのその言葉が幸村には何故かお別れの挨拶のように聞こえた。


「ありがとう、精市。
特に貴方には本当に本当に助けられた」

ずっとこのままでいたい。
でもそれは叶わない。

わかっている。

彼女は何度も考えた。

もし病気が治ったら?
もし普通になれたら?

ずっとこの夢のような毎日に浸っていられる。
ずっと誰かを大切に思っていられる。

でもそんなこと、そんなもの。
手には入らない。

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設定タグ:テニプリ , テニスの王子様 , アニメ   
作品ジャンル:アニメ
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はる - めちゃくちゃ面白くて短時間で一気に読んでしまいました。更新待ってます^ ^ (2022年1月25日 4時) (レス) @page40 id: aae421ef6f (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 面白くて一気読みしました!とても心が動かされました。続きがあったら見たいです。お体に気をつけて。 (2021年3月20日 2時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
スノウ - 更新されてる〜!嬉しい!そして返信ありがとうございます!もう物語も終わりに向かっているようで、寂しいような、でもどんな結末になるか気になるような…複雑な気持ちです(笑)次の更新も楽しみです。こんなご時世ですので、お身体には気をつけて、ご自愛ください。 (2021年1月13日 2時) (レス) id: 4b5dbbee1a (このIDを非表示/違反報告)
yum(プロフ) - 久しぶりにお邪魔したら更新されていて、とても嬉しかったです。情景が浮かぶ描写、キレイなことば、涙があふれます。ただ、愛が欲しかった…本当に大好きです。 (2020年7月22日 15時) (レス) id: 59466218f8 (このIDを非表示/違反報告)
SHINO(プロフ) - 名無し96398号さん» ありがとうございます!ご期待に添えるようにがんばります! (2020年6月22日 16時) (レス) id: 59abf06d02 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:SHINO | 作成日時:2017年4月5日 11時

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