ただ、愛が欲しかった。- fifth story -

183. ページ3

本当は求められるのを待ってしまっていた。

強引にでも奪って欲しいと思っていた。

ひどく縛り付けて、その指で呼吸を奪って欲しかった。



「A」


細くて綺麗な指が私へと伸びてくる。

柔らかく細められた瞳に、酷く淀んだ私が映っていた。



犯した罪に気づかないふりをしてしまえばいい。

目を閉じて身を委ね、現実になんて目を向けず、幻想に浸ってしまえばいい。


囁く悪魔に魅せられて、私はそっと世界の色をシャットダウンし瞼を伏せた。









「違う」


……はずだった。

誰かの頬を伝う涙を追うように視線を下ろし、どこまでも無能な自分に嘲笑を吐く。

結局は堂々巡りなのだ。




「光の事は好きだよ。
でもね、私にはもっと大事なものがある」


ガラクタの体が抱える恋心なんかより、私にとって大事なのは、目の前にいる彼の幸せなのだ。

自己満足の押し付けだと、言われるかもしれない。

でもそれでも、私の流す雫の全ては彼の幸せを願うばかりなのだ。

たった1日の夢すら、私自身が許さない。

だから、泡沫に啼き、明日に闇を添えればいい。


「それは、幸村さんか？」


首を縦に振るのは容易い。脳に指令を出すまでもなく、力すら加えなくてもいい。

でも、それはできない。

コルセットに巻かれた感情が、必死に堰き止めるから。



「……っ」


沈めた恋慕が最後の抵抗を示す。

縦に落ちようとする首に縋り付き、彼が恋しいと震えている。

わかっているのだ。

縦に首を振れば、それで全てが終わるのだと。

声も音も涙も笑みも優しさも必要ない。

ただ、ロボットにもできる頷くという行為を実行するだけ。

たったそれだけで、彼の幸せは確立し、終わりのホイッスルを鳴らせるというのに。

それをどうして、どうして。






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