ただ、愛が欲しかった。- fifth story -

192. ページ12

「昨日花火大会の前に四天宝寺と練習試合あったんすけど、そん時のスコア見てもらいたくて」


四天宝寺、その言葉にAは静かに反応を示した。


「あ、そういやそんなこと言ってたな。
幸村くんがセッティングしたんだろぃ？練習試合」


少しだけ、空気が凍る。
心なしか、面々が丸井と切原を睨んでいるようにも見えた。

恐らくAの元彼が四天宝寺にいるため、気を遣え、といった所だろう。

以前、元彼について触れた時、Aが怒る、という場面もあったわけで。


「はは、そうだったかなぁ」


久しぶりに見せる幸村の作り笑い。
後ろに見える黒いオーラに、切原はハッとする。

全員がAを盗み見るが、Aは黙ってお茶を飲んでいた。




「スコアならここに持ってくればいいのではないか？」


空気を読んだ柳が的確な意見を提示すると、ホッと息を吐く切原が口を開く。


「あー、えっとそのアドバイスもらいたいなーって思ったんすけど」


わざとらしく言葉を濁す切原。
焦りが滲んでいて、それがまた面白くAは微かに笑った。


「私も行っていい？
みんながテニスしてるとこ久しぶりに見たいし」


皆が気を遣っていると悟ったのか、水筒の蓋を閉めたAが首を傾げる。


「もちろんっす！」


2回目のため息を零した切原はきらきらと輝かせた瞳を細めた。



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