162.もしもそうなってしまったら ページ17
＿＿＿ガチャッ
寮の扉を開けると視界に入った長椅子に座っていた。もう辺りも暗くなっていて比較的涼しい。
焦「蛍。」
蛍「…兄さん。」
声をかけるまで気づかなかったのかこっちに顔を向ける。部屋着に綺麗な赤髪は下ろされていた。
焦「今日は風が冷てぇから風邪引いちまうぞ。」
蛍「うん、もう戻るよ。」
…？
焦「…勘違いだったらいいんだが、お前なんか悩んでんのか？」
蛍「…」
聞くとわかりやすく目を伏せる。
蛍「…今日の、仮免試験。」
その言葉に少し身構えた。
蛍「別に…弱気になってるわけじゃないの。前に進むってもう決心した。でも、…だけど、私…」
俺より少し低い背丈の妹は目を伏せる。
安心させるようにその肩に手を置くとハッと顔を上げてこっちを見た。
焦「自分の気持ちは正直に言え。」
そう言うと蛍は瞼をギュッと強く閉じた。
蛍「…っ」
何かに怯えてるみてぇに。
蛍「私、…父さんみたいにならないよね。もし、そうなったら？わたし、すごく、すごく怖いよ、兄さん……」
＿＿いつか自分はあんな風になるんじゃないか。
＿＿またあんな事になってしまうんじゃないか。
＿＿いつか自分がその要因になるとしたら。
簡単に想像も出来ない。
完全には理解してやれない、本人にしかわからない苦悩。
蛍「こんなんじゃ…まだ…母さんに……」
怯える妹が俺にこぼした気持ちに。
俺は何て言ってやれるだろう。
小さく震える肩に置いた手に緩く力を込めた。
焦「……おかしいな、さっきおまえが"二人で乗り越えよう"って言ってくれたじゃねぇか。」
蛍「！」
軽く笑って言うと蛍は驚いた様子で顔を上げる。
焦「絶対そうはならないって言いきってやる。」
人のために家族のためにと、自分を削り続けた妹。
だが結果はあれだ。
母には煮え湯を浴びせられ、兄には突き放される。
必ず誰かが泣く始末。
絶え間無く続く父親からの特訓。
全員がバラバラになっていく様を見て
一体＿＿どれほどの絶望だったか。
そして諦めた。
"もう家族にはなれないだろう"と、"家族ではなかったんだ"と。
＿＿そう、せざるを得なかった。
じゃなきゃ先に自分の心が壊れちまうから。
蛍には根本に家族を想う優しさが存在した、……だからこそ余計に苦しんだはずだ。
自分を父親と重ね、こうなってしまったのは自らが母親に甘えていたせいだと。
そうやって自分を憎み責める理由は増えていった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 284人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
pino(プロフ) - うさぎさん» 好評とても嬉しいです！コメントありがとうございました！ (2020年5月24日 16時) (
レス) id: 7816ba7c93 (このIDを非表示/違反報告)
うさぎ - とても面白いです。話の展開がとても好きです。応援しています。 (2020年5月8日 3時) (レス) id: 1ab5dd9ceb (このIDを非表示/違反報告)
pino(プロフ) - セイラさん» 好みに合っていてよかったです！(*^^*)コメント&応援ありがとうございました！ (2020年5月7日 11時) (レス) id: 7816ba7c93 (このIDを非表示/違反報告)
セイラ(プロフ) - めちゃめちゃ面白かったです！！話の展開がとても好みでした。大変だとは思いますがこれからも頑張ってください！応援しています！！ (2020年4月26日 4時) (レス) id: 5ca5505410 (このIDを非表示/違反報告)
pino(プロフ) - イマツギさん» 応援ありがとうございます！一応同時進行で書いているんですがどうしても更新が偏ってしまいますね…、早く更新できるよう頑張ります…！ (2020年1月23日 19時) (レス) id: 7816ba7c93 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：pino | 作成日時：2019年11月2日 17時
