5 ページ6
「私のしたことの何がいけないの？」
男はみんな高い声が好きだって言うけど、俺にはわからない。
こんなにも鼓膜を揺らす声を彼女の他に知らないから。
「開き直らないでよ！
アンタが誰とでもこういうことしてるの知ってるんだから！」
女はよく男を馬鹿だって言うけど。
俺からすれば、女の方が滑稽なほど馬鹿だよ。
「誰とでもこういうことして何がいけないの？
貴方だってこの男とそういうことするでしょ？」
「私は彼としかしないわよ！
アンタは何人もの男としてるじゃない！」
今、貴方とキスしてた男がどんな顔してるのか、見てみたいよ。
きっと言葉も出ずに項垂れてるんだろうね。
「人数が多いと罪にでもなるの？」
屁理屈だ。
そう言われても仕方のないようなことを彼女は平気で口にする。
彼女のそういう所が嫌いでもあり好きでもある。
「なっ……」
言葉につまった女の子は、次の言葉が出ないのか、しばしの沈黙が落ちる。
「気が済んだなら、出て行ってくれる？
私女の子と話すの好きじゃないの」
呆れたようにため息を零したAさんは、淡々と色のない声で拒絶を示した。
「……っ絶対許さないっ」
鞄を叩きつけるような音がしたかと思えば、ドシドシと踏みしめるような足音が響く。
あ、こっちに来るな。
なんて、呑気に思う。
焦るべきなのかもしれないけど、女の子がどんな顔しているのかがどうしても見たくて、俺は一歩もその場を動かなかった。
「……っぅ」
あらら、泣いちゃってる。
Aさん、貴方は本当に酷い女だよ。
パタパタと駆けていく背中を見つめ、琥珀色の壁に手をついて、コロコロと沸き上がる笑みを必死に抑える。
愉しいことなんて1つもないのに、笑みが止まらなかった。
「ごめんね、Aちゃん。
あいつとは別れるよ。
だからさ、俺とちゃんと付き合わない？」
女の子がいなくなった講義室に、残された男の声が響く。
「ごめんね。
私、キス下手な男嫌いだから」
浅はかな男だ。
彼女を面倒に巻き込んだ時点で、お前はもう用済みなんだよ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 108人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
篠(プロフ) - のんさん» ありがとうございます。嬉しすぎて悲鳴をあげました。文才も表現力も未熟すぎてまだまだお見せできないレベルだと思っておりますが、そう言っていただけて光栄です。そのお言葉に相応しい作者となれるよう頑張りたいと思います。ありがとうございました。 (2017年4月29日 11時) (
レス) id: 41c7c19702 (このIDを非表示/違反報告)
篠(プロフ) - 瑞樹さん» ありがとうございます。息をするのを忘れて、ですか。とても嬉しいです。私の目指していた作品の像がそのお言葉なので本当にありがとうございます。ファンだなんて恐れ多いですが、よろしくお願いします。コメントありがとうございました。 (2017年4月29日 11時) (レス) id: 41c7c19702 (このIDを非表示/違反報告)
篠(プロフ) - 稲さん» limitationも読んでくださったんですね。ありがとうございます。あちらはコミカル要素も入れているのでそう感じられたのだと思います。救いようのないお話に涙してくださり、ありがとうございます。limitationもよろしくお願いします。 (2017年4月29日 11時) (レス) id: 41c7c19702 (このIDを非表示/違反報告)
篠(プロフ) - ゆきのさん» ありがとうございます。自信のない作品で理解していただけるか不安だったので嬉しいです。台本書きではないので読みにくいかもしれませんがお付き合いいただけるとありがたいです。わざわざ感想をありがとうございました。 (2017年4月29日 11時) (レス) id: 41c7c19702 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 嫉妬します。その文才に、その表現力に、もはやきっと全てに。こんな文章書けたらなぁ！ (2017年4月26日 23時) (レス) id: 6cd725b9c2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ふじしの | 作成日時：2017年4月26日 16時
