深海の歌 2 【wrwrd!】 (ページ13)

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思わず、絶句した。隣のひとらんも目を見開いて立ち尽くしている。死んではいないはずだ、力を使いすぎた分だけ身体に反動は返ってくるが。

「っ、どこ行くん？」

後ろに走り出そうとしたひとらんの腕を掴む。彼は低い声で、俺を睨みつけた。

「放して」

「待てや、俺らが行けばあいつの居場所わかってまうやろ。まだばれてへんかもしれん、敵が居なくなってから…」

ーートントン、向こうさんはまだやる気みたいやけど？あ、でもこの距離やと俺らのとこには届かんか

ロボロの声に、はっとする。ちらりと見えたPCには船の上にいる生き残りの者達が、弓矢を引き絞ってるのが見えた。

「や、ばい」

俺らのとこには届かない。それなのに放つ理由は？それは…

彼女が、いるから。

届かない。俺らの足では、俺らの船では。

でも一つだけ、間に合わせる事ができる方法がある。俺にはできる、俺にしかできない。

もう、人間として生きると決めた。だけどそれは何の為？

俺が堕天使になったきっかけは、何？

「トントンっ！？」

窓枠に手をかけて、思い切り足をかける。勢いそのままに窓を乗り越え、身体を空に踊らせた。ちらりと見えた背後で、驚くひとらんと目を見開くグルッペンが見える。

あぁ、ひとらんはええけどグルさんには見られたくなかったな。

だって。

こいつ、面白がるんやもん。

風を切り、重力に従って俺の身体は地に落ちていく。加速していき目の前に迫る地面、しかしぶつかる事は無い。

急にふわりとした浮遊感と共に、今までの加速が下では無く、前へと切り替わってゆく。久しぶりに動かす感覚と、ばさり、と背後から羽ばたく音が聞こえた。

速く、速く、もっと速く。真っ直ぐに、彼女のところへ飛んでいく。

「間に合えっ…！」

敵国の船は、近くは無いが遠くもない。弓矢が届くのは時間の問題。
大きく羽ばたいて岩山の目の前で減速し、Aの体を抱きかかえる。たんっと岩山から飛び上がった時、近くから矢が水面を叩く音が聞こえた。やばい、急がなければ。

ここで落ちては危険にさらすだけだから、必死に羽ばたく。残り少ない"力"を振り絞り、俺らの国へ。

「…っ！」

その時だった、激痛が走ったのは。バランスが崩れるのをなんとか立て直して、歯を食いしばる。

あと少し、あと少しで…

痛む箇所が増えるのをよそに、最後に大きく羽ばたいた。