抱いた恋心 ページ23
『柏さんも仕事の帰り?おやじさん、味噌ちょうだい。』
ちくわに味噌をつけながら聞くと、はんぺんを食べていた柏さんがそうそう、とうなずく。
「いつもは違う曜日に来てるんだけど、なんか今日は飲みたい気分だったからね。そういうぐっちゃんはどれくらい来てんの?」
「ぐっちゃんは週に3回以上は来てるんじゃねェですかい?」
『さすがにそんな来てない』
この屋台に入ると客はみんな友達のように話し出す。屋台の暗黙のルールでこの屋台の中に入ったら敬語は禁止なのである。親父さんの人柄もあって、初めて会った人もまるで旧知の仲のよう。
それなりに深い時間になってしまって親父さんはおでんに蓋の板を乗せる。
「ほんじゃあお二人さん。気ィつけてな」
『うん、親父さんもね。』
バイバイと手を振ると親父さんはそれに返すようにさっと手をあげ、そそくさと店閉まいをして屋台の荷台を引っ張って去っていった。
「駅まで送るよ。ぐっさん」
『ぐっさんだと有名な人になっちゃうから。』
___
それから柏さんと週一のペースでおでん屋ではち会うようになり、何度も飲んでいるうちに、コロッと好きになってしまった。
普段はチャラチャラしているらしい柏さんも、屋台では旧知の友達みたいに話すから、異性として意識することはないって思ってたけど、駅までの帰り道で車道側を歩いてくれたり、少しふらつくとスマートに支えてくれたり、ふと見たときに笑う横顔……
そして、髪の間から覗くピアスと甘い香水の香りが妙な安心感を生んで、奇しくもいつの間にか恋心を抱いてしまったというわけである。
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作者名:Momo | 作成日時:2022年1月14日 1時