普通以上普通未満の生活 (ページ22)

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おでんの遭遇ページ22

時をさかのぼること約1ヶ月前、残業の帰りに自分へのご褒美で飲みに行くことにした私は、1人酒する時にいつも行くおでんの屋台で運命(なお一方通行)の恋をした。

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ヘイらっしゃい。おう、ぐっちゃんかい。

暖簾をめくり椅子に座ると、タオルを頭に巻き付けた親父さんが威勢のいい声で出迎えてくれる。仕事で疲れた日は親父さんに愚痴をたくさん聞いてもらうからここはおでん屋ではなく実質ぐちり屋。親父さんはいつも優しく聞いてくれるからその優しさに溺れてしまう。

あれ？この流れだと親父さんに恋する感じになっちゃわない？違う違う
ちなみにいつも愚痴を言っているからぐっちゃんらしい。

『やっぱこの時期になると夜も冷え込んでくるね親父さん。……熱カンで。あとチクワとガンモとタマゴ。』

「温暖化なんてどこ吹く風さね。はいよ」

目の前でさっき言ったおでんたちがコトコトとおやじさんの手によって器に乗せられていく。

『聞いてよおやじさん！今日も上司が』

私がいつものように愚痴をこぼしかけたとき、ふわっと外の寒気が頬をかすった。寒っ！！お客さん？後ろに気配を感じて振り向くと、暖簾をめくって持ったまま、スラっとしたスーツのお兄さんが立っていた。あ、目が合った。どうも。

「めずらし、先客いるじゃん。いつもは閑古鳥が鳴いてるのに」

「この子も常連だけどお前さん違う曜日に来てるから顔を合わせるのは初めてかい。ぐっちゃん、もうちょい右につめたげて」

はいよ、と横に移動すると、お兄さんは横に座っておでんを吟味し始める。あ、めっちゃ香水の匂いがする。まさかこんな甘い香りをおでん屋で嗅ぐことになるとは。

「なに？俺の顔になんかついてた？ぐっちゃん。」

どうやら私に向けられていたらしい言葉にハッとすると、お兄さんがにやりと微笑みながら頬杖をついて私の方を見ていた。なんかめっちゃカッコつけてるけどごめんぐっちゃんって愚痴から派生したあだ名なんです。

「柏(かしわ)君、ぐっちゃんはそういう男嫌いなんだよ」

グッジョブ！おやじ！

「そういう男って？」

『すぐに口説こうとしてくる人』

胸の前で腕をクロスにして応戦体勢をとると、柏さんは慌てて言い返す。

「まって！俺確かにいつもはチャラチャラしてるけど、ここでは俺モテ男は捨てることにしてるから安心して！ねぇ！おやじさんならわかるでしょ！」