最終話 ページ1
卒業式の日は、文句無しの晴れ空で。
澄んだ風も、流れる雲も綺麗で。
私達の卒業と門出を祝福してくれているようで。
そして、私と夾君の、門出も。
「……よしっ。これであらかた、部屋のお掃除おしまい」
「見事にガラッガラになったなぁ」
「うん」
額に滲んだ汗を拭い、Aはふーっと息を吐き、夾はものひとつ無くなった部屋を見回した。
Aと夾がこの家を離れると同時に、透も就職を機に一人暮らしする事になるため、このとおり綺麗に元の空き部屋へと戻った。
「夾君の部屋もガラガラだね」
「まぁ、残すモンも無し、今夜は師匠の家に泊まるんだしな」
「………何だか、初めてこの部屋に通してもらったこと思い出すな……」
開けた窓から覗く景色を見ながら、Aは懐かしそうに目を閉じる。
「由希君も、紫呉さんも、とても優しくて。私はただあれよあれよという間に流される感じで、このお部屋に通してもらって、それから……夾君が屋根を……」
「あ"ーっ!!
そんなこともあった……か」
ついっと天井を指さしたAに、夾は今思えばとんでもない事したなと今になって恥ずかしさが押し寄せる。
「それで、夾君を止めようとしたら、私が転びそうになって……夾君が猫になって、紫呉さんも由希君も変身して、更にびっくりして。
でも、とても……楽しくて」
懐かしむ声が段々と寂しげになっていきながら、Aは俯く。噛みしめるように思い出が蘇ってくるから。
「私……楽しかった。皆と過ごした日々は、本当に楽しくて、尊くて、愛しくて……。宝石みたいにキラキラしてて……。
……さびしいな……やっぱり」
夾はAのしゃがみ込むと、そのまま俯くAの頭を自分の胸に引き寄せる。
そんな夾の優しさに、ますます涙が滲む。
さびしい。
そう思えるのは
過ごした日々を愛せていたから?
愛したら、愛した分だけ
お別れもさびしい。
「……分かってないよなぁ、お前……」
「……?」
「お前はさ、お前が思っている以上に、みんなに……愛されてんだよ。
だからさ、大丈夫だよ。今生の別れでもなし。
新しい宴会のはじまり……だろ?」
そう言って笑顔を向ける夾を見て、Aも段々と笑顔が浮かぶ。
「……うん……っ」
ぐぅー
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キララ(プロフ) - こんなに感度して涙を流した小説は初めてでした。最後まで読むことができて本当に幸せです。こんなに素晴らしい作品を作ってくれてありがとうございます。 (2022年3月1日 19時) (レス) @page11 id: 48658bd7a3 (このIDを非表示/違反報告)
ゆえ(プロフ) - ずっと読んでいた作品が終わって寂しいけれど最後まで読むことが出来た嬉しさもいっぱいです。素敵な作品をありがとうございました。 (2021年10月10日 23時) (レス) @page11 id: 5f18ccb9ca (このIDを非表示/違反報告)
さく(プロフ) - とても感動しました!素晴らしい作品ありがとうございます (2021年10月1日 15時) (レス) @page11 id: 033f171bb4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆちゃ(プロフ) - 何度目だろう。何度読んでも泣いちゃう。 (2021年9月6日 1時) (レス) id: c09c5cb353 (このIDを非表示/違反報告)
れもんくん(プロフ) - 今はゆっくり休んで下さい!!お疲れ様でした! (2021年6月21日 17時) (レス) id: 2332991ea0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:言ノ葉 | 作者ホームページ:https://twitter.com/ShinyStars1029?s=09
作成日時:2021年5月30日 23時