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｢でもいい｡知らない｣
｢え……いいの？｣
｢いいんだよ｡アイツには気を遣うだけ無駄なんだ｣
ムスッとして言い切った由希の表情を見て､Aも透もクスッと笑う｡
由希にとって､自分達や草摩の人達以外にそんな風に普通に接することの出来る相手が出来たと言うのは､とても微笑ましい｡
すると咲がそういえば……と切り出す｡
｢その副会長だけれど……私､その人に会った事があるような……そんな気がずっとしているの……｣
｢え……？｣
｢以前……生徒会新任の挨拶で壇上に上がる姿を見た時から､昔……どこかでこの人を……って｡
そう……Aちゃんと一緒に……｣
｢え｡え……っ？私と？｣
｢そうなの！？｣
｢そうなのですか！？｣
｢どうだったかしら……｣
｢あやふやな記憶で混乱を呼ぶなよなぁ花島ァ｣
Aは必死に今までの記憶を巡りに巡って思い出そうとするが､全く出てこない……｡というか……｡
｢私……顔もはっきり知らない……｡申し訳ないです……｣
｢い､いやいいんだよ別にそんな！！｣
｢Aちゃん！！落ち込まないでください！｣
｢そうよAちゃん……｡きっと気のせいに決まってるわ……｣
｢おいおい言い出しっぺ｣
結局翔の話があやふやになったまま､次の場所へと移動の時間になってしまった｡
｢次はどこだったかしら……｣
｢春日大社？｣
｢錦の里にも行きたかったなぁ｣
｢日数限られてるからねぇ｣
するとありさの近くにいた鹿が､もうありさ達が行ってしまう事を察したのか､つんつんとありさの腰を軽くつつく｡
｢お？なんだよ鹿｡うちらもう移動なんだよ｣
｢人間慣れしてるわね……｣
｢餌付けされてるからだろ｣
夾の言葉を聞いてありさと咲が顔を見合わせると､ポケットから酢昆布を出してチッチッチ……と夾に向かって手をちょいちょいと動かし始めた｡
｢……おい｡あんま聞きたかねぇが何してんだそこのヤンキー……｣
｢餌付けには根気が必要……｣
｢だな……｣
｢“だな”じゃねぇよ聞こえてんぞ！！｣
由希は三人のやり取りを呆れ気味に見ていたが､隣から｢わ……っ｣と小さな声が聞こえ､視線を移す｡
するとAの持っていた紙袋が鹿にロックオンされていた｡
｢ごめんね｡これは食べ物じゃなくて……｣
｢あわわ……！鹿さんすみませんそれは……！！｣
わたわたと慌てるA達の隙を見て､由希はAの手からひょいっと紙袋を持って鹿が来ないよう高くあげる｡
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作者名：言ノ葉 | 作成日時：2020年10月21日 14時
