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｢……っあの！｣
ガシッとその人の腕を掴み､はぁはぁ……と息を切らしながら顔を上げる｡
｢…………君は｣
｢…………っ！紅野さん……っ｣
そう｡人混みの中で見つけた背中は､紅野だった｡
紅野は見上げるAを少し驚いたように見つめた後､そっと正面を向く｡
｢……今度は君か｣
｢え……｣
｢……いいや｡少し､場所を変えようか｣
＊＊＊＊＊＊＊
｢君は､どうしてあそこに？｣
｢バイトの帰りです｡そしたら､遠くから紅野さんの後ろ姿が見えて……つい追いかけてしまいました｣
公園のベンチに並んで座り､しばらくの沈黙を破ったのは紅野だった｡
Aが答えると､紅野は目を見開いてAを見る｡
その顔にAが不思議そうに首を傾げる｡
しかし紅野は何事もなかったかのようにまた前を向く｡
｢……あの､紅野さんはどうして……｣
｢少し､時間を貰ってね｡本当は外に出るつもりはなかったんだけど｡今日は……色々考えたくて｣
｢もしかしたら､もう聞いているかも知れませんけど､魚谷ありささんをご存知……ですよね｣
｢………………｣
｢うおちゃんは､中学の頃からのお友達なんです｡優しくて､心が強くて､いつも私と透の事を見守ってくれる｡でも……だからこそ､自分の本当の気持ちを心に押し込めてしまう人で……｡
バイト先も､変えてしまったけれど､本当はとても会いたがっています｡今でも､紅野さんの事を想っています……｣
｢大丈夫｣と言いながらも､ありさの表情はとても寂しそうで､悲しそうで｡
彼女のために､何かしたい｡
｢……透さんにも伝えたけれど､会うつもりは……無い｣
｢どうしてもですか｣
｢………………｣
｢今は……そうでも｡いつかきっと､会いたいと願う日が来ます｡
明日かもしれない｡一週間後かもしれない｡
一ヶ月後……もしかしたら遠い未来の話になるかもしれない｡
それでも生きている限り､願いは生まれ続けるから｡今日と同じ日は､二度と来ないように｡一日一日が､奇跡みたいに巡るように｡願いも､生まれ続けるから｣
｢………………｣
｢私は､そう信じています｣
｢……さっき､君に声をかけられた時､びっくりしたんだ｣
｢え？｣
｢……同じ事をするもんだから､ありさと｣
ありさも､自分を必死に追いかけて､｢つい追いかけちゃったよ｣と笑った｡
だから､同じ事をした彼女に､少しだけありさの面影を見たりもして｡
本当は……本当はすごく会いたい｡
会いたいんだ｡
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作者名：言ノ葉 | 作成日時：2020年10月21日 14時
