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｢Aちゃん｡お疲れ様｣
｢お疲れ様です｣
｢いつも関心ねぇー｡休憩室にあるお茶菓子､持って帰っていいからね｣
｢ありがとうございます｣
パートのおばちゃんに頭を下げ､Aは本日最後のゴミ袋を処分しに行く｡
ふぅ……っと息をついて天を見て思い出すのは､紅野に会うために本家へ向かった透の事で｡
(透……大丈夫かな……)
無事紅野には会えただろうか｡というか､無事に本家に入れたのだろうか……｡
紅野に会うまでにも､たくさんの試練があそこにはあるような気がして｡今日一日気が気では無かった｡
(今日はもう上がれるし｡早く帰ろう)
そう思いながら角を曲がった時､ドンっと小さな衝撃が襲った｡
思わずAが立ち止まり､目線を下に向けると､小さな女の子がしりもちをついていた｡
｢あ……ごめんなさい｡ぼーっとしていて……っ｣
慌ててAがしゃがみこむと､小さな女の子は俯いていた顔を上げる｡
その顔には､Aも見覚えがあった｡
｢あなたは……紅葉君の……｣
きょとんと見上げる真ん丸な瞳とふわふわな髪｡
紅葉とよく似たそれに､Aが思わずそう言葉を漏らすと､女の子はピクっと反応した｡
｢おねぇちゃん……知ってる？モミジ……オトモダチ？｣
｢え？｣
｢はい｡どうぞ｣
どうやら母親とはぐれてしまったらしい彼女に､Aは自販機で買ったオレンジジュースを渡す｡
近くの階段に座り､その女の子はくぴくぴと飲み出した｡
(紅葉君の……妹さん……｡モモちゃん……だっけ……)
聞き間違いじゃなければ､彼女は先程｢モミジ｣と言ったような……｡
思わずモモに見入っていると､彼女はふぅ……っと飲むのをやめてAを見る｡
｢おねぇちゃん……モミジとオトモダチ？｣
｢えっと……うん｣
｢いいなぁ……｣
｢え？｣
｢モモね､ほんとうはモミジとおはなししたいの｡いっしょにあそんだり……ヴァイオリンひいたりしたいの｡ここでいちど会ったときに思った｡ママに似てるって｡
でも､ママは似てないわよって言うの｡パパも､あったらだめって｡
だから､いつもこっそり見るの｡モミジのおうち｡
ヴァイオリンひいてるところ､見に来るの｡ヒミツで｣
モモから語られた事実に､Aは思わず胸が熱くなる｡
モモは､小さいながらもちゃんと気付いていたのだ｡紅葉が自分にとって､とても大切な人である事を｡
気付いていながらも､直接伝えることが出来ずに､いつもこっそり見ていたのだろうか｡
紅葉と同じように｡
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作者名：言ノ葉 | 作成日時：2020年10月21日 14時
