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翔の言葉に､由希はただ｢……そう｣とだけ返す｡
それ以上､何をどう返せばいいのか分からないから｡
｢当たり！？当たった！？やっぱし！？だよなぁ！だってなんか夾ってやつの方が倖せに見えるもんなぁ｡ゆんゆんより｣
｢……じゃあ｡俺は､“不幸”？
……楽しいか？こっちの方が倖せだとか､こっちの方が不幸だとか｡そんなことを天秤にかけて他人と比べて｡
そんな事で優劣を決めて……決められて楽しいかよ｡
嬉しいかよ！！｣
｢………………｣
“嬉しくない”
“どちらがより不幸かを天秤にかけて
それで勝ったって”
“嬉しくないよ”
ゴッ！！と大きな音が廊下に響き渡る｡
翔は由希が抱えていた苗の入ったケースを足で蹴り飛ばした事で､入っていた苗は無惨にも床に叩き落とされた｡
｢うっざー｡一人でキレちゃってさ｡なんですか？頭茹だってんですか？｣
｢キレてんのはどっちだよ……っ｡物に当たる事ないだろ！！｣
｢キレてねーよ｡偉そうに説教かまされてムカついたんだよ｣
｢…………そっ……それをキレてるって言うんじゃないのか！？｣
｢っさいなぁ！！母親かっつーのお前はよぉ！！｣
由希が翔の胸ぐらを掴んで怒鳴ると､翔も掴み返してそのまま怒鳴り返した｡
そしてそれを合図にお互いの言い合いが始まる｡
｢誰が母親だ気分悪くなること言うな！！｣
｢気分悪いんはこっちだっての堅物！！｣
｢わからず屋！！｣
｢あーあー結構だね！！わかったような口かますよりはね！！｣
｢分かってんだよ！！
俺がそういう奴なんだよ！！そうだよ今のは俺に向かって説教したんだよ！！悪かったな！！！｣
すぐ､他人と比べようとして｡劣等感に負けそうになって｡
自分が消されそうになるんだよ｡
そうだよ｡会長に相応しいのだって､本当は俺よりも､
もう一人の俺が耳打ちするんだ｡
すぐ､弱い考えに逃げようとするんだ｡
｢……そうだな……｡キレたのは俺の方だ……｡
……ごめん｣
翔に掴みかかっていた手を離し､由希は散らばった苗を片付け始める｡
一番の問題児は､俺だ｡
俺にとっての“悪”は､俺自身だ｡
俺が闘うべき敵はいつだって､俺の中にいる｡
｢……なぁ｣
隣で聞こえた声に顔を上げると､しゃがむ由希の隣で､同じように翔も膝を抱えてしゃがみこんでいた｡
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作者名：言ノ葉 | 作成日時：2020年10月21日 14時
