第７２話｢そんなことしか､思い浮かばねぇよ｣ ページ11
二学期が始まり､少しずつ生徒達も夏休み気分が抜け､三者面談週間が近づいてきたある日､由希は担任の白木から聞かされた事実に目を丸くした｡
｢え……？そんな事を言ってきたんですか？母が……？｣
｢ああ｡昨日電話が来てな｡都合がつかないから日を延ばしてほしいってさ｡
……お前の方に連絡はいってないか？
こら走るな！！危ないぞ！！｣
｢はーい！｣
白木が背後を駆け抜けていった男子達に注意する声を遠くに聞きながら､由希は自分に相談もなく勝手に決めた母親にため息をついた｡
｢……全然､聞いてないです｡
すみません……｡母が勝手を……｣
｢…………別にいいさ｡あたしはその日でも構わないし｡……当日よろしくな｣
｢……はい｡よろしくお願いします｣
｢お前は気にするな｣と慰めるようにポンと肩を叩く白木に､由希はそう返すしか出来なかった｡
そして白木が去っていくのと入れ違いに､Aと透が通りかかり､どこか元気の無い由希に声をかけた｡
｢由希君……？｣
｢どうかされましたか……？｣
｢ん？母が面談の予定日を勝手に変更させたみたいなんだ｡……全く｣
その時透は､由希が以前｢親の前でもこんなに笑った事ないのに｣と言っていた事を思い出す｡
由希は苦笑していたけれど､本当は凄く……気にしているのではないだろうか｡自分に相談なく､決められた事｡
｢でも｡来てくれるだけでも……万々歳……かな｣
｢由希君……｣
｢女子からだよね｡三者面談｡本田さん達は進路決まった？｣
｢はい！｣
｢由希君はやっぱり進学……｣
“いい気になるなよ”
｢っ｣
｢そう……だね｡そうしたいかな……｣
由希や夾の進路……未来｡それに触れる度､あの日慊人に言われた言葉が胸を過る｡
“
“いつまでも､変わることなく”
｢さ……三者面談は自分の……自分の道を､自分の未来を考える為にするもので……ですから……ですから由希君､頑張って……ください｣
臆することなく｡
“出しゃばらないで”
｢が､頑張って出しゃばります……っ！！｣
｢え？｣
｢………………｣
三者面談は……自分の道を……未来を決めるために……｡
とにもかくにも､いよいよ三者面談がスタートする｡
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作者名：言ノ葉 | 作成日時：2020年10月21日 14時
