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「由希……いる?」
「あ……ううん。どこかに行っちゃったみたいで……伝言があるなら代わりに聞くよ?」
「……伝言っていうか……なんかさっき見かけた時……どことなく……」
「あ……っ」
「沈んでいるような」そう思った時、ハッとした。
もしかしたら……由希君も見たのかもしれない。
あの夜、夾君の「本当の姿」を。
(だけど……)
楽羅が「本当の姿」を既に知っていたかもしれないように、由希も既に知っている事なのかもしれない。
これはただの杞憂かもしれなくて、でもそれを訊ねる事にも躊躇いがあって。
……触れられたくない処まで触れてしまうかもしれなくて。
そんな風に考え出すと結局……楽羅にも由希にも知らぬ素振りをするしかない。
「………………」
潑春は俯いているAの頭に手を伸ばしポンポンと軽く撫でる。
初めてのことにAがキョトンと見上げると、潑春は「うん」と頷いた。
「じゃ」
「は?え、あ……ん?」
スタスタと歩いていく潑春の背中を、Aは呆然と見送っていた。
********
Aと別れて、潑春は誰もいない渡り廊下でぼーっとしている由希を見つけた。
「……なんかあった?あんま元気ないみたいだけど」
「……そういう事言うなよ。人が戦ってる時に……」
「「戦ってる」のか……」
「…………春、楽羅は元気?」
「さぁ?家が近いとは言ってもあんま会わないし……。まぁ元気だとは思うけど……。
楽羅姉がどうかした?」
「………………」
あの日の朝、まだ誰も起きていない時間帯に帰ろうとした楽羅を、由希だけが見送っていた。
“楽羅、帰るの?まだみんな寝てるのに……”
“うん……。今日はちょっと……。
夾君に「またね」って伝え……てくれないか。ゆんちゃんは”
“……楽羅っ”
“ん?”
“……な……んでもない”
“ええ?なぁに?
変なゆんちゃんっ”
「……楽羅は強い。
「何か」なら……あったけど。言わないよ」
今は蓋をしておくんだ。……きつく。
あの姿の事も、
そうしないと、ドロドロの感情が溢れてきて。
憎悪とか、嫌悪とか、汚い
もう、それは嫌だから。
今は蓋をしておくんだ。いつか、もっとちゃんとした自分が。
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言ノ葉(プロフ) - ゆえさん» コメントありがとうございます!これからもワクワクした気持ちで読んでいただけるように精進致します!作品は今拾弐まで続いておりますので、引き続き読んでいただけると嬉しいです! (2020年12月27日 21時) (レス) id: ebcac45cbc (このIDを非表示/違反報告)
ゆえ(プロフ) - 大好きなお話に巡りあえてわくわくした気持ちで読み進めています、とある少女の話での第三者からみた二人の姿がとても良くて感動しました。 (2020年12月27日 17時) (レス) id: 8e1c7d7280 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:言ノ葉 | 作成日時:2020年8月19日 12時