3 ページ40
「ここら辺で結構ですよ。ありがとうございます」
「あ、あの……本当にいいんですか?夾君に声をかけていかなくて……」
Aはこの場にいない夾のことを思い眉を下げる。
何も言わずに、このままお別れをしてしまって本当にいいのだろうか。
「……わからないんです。……夾を引きとったのは、償いのつもりでした……。
私の祖父は、夾と同じ猫憑きでした。家族中で疎外し、一族中で中傷し、……ひどい扱いをしていました。
そして私も、その一人でした。
祖父と対面したのは、子どもの頃にたまたま見つけた蔵に入った時の、一度切りでしたが」
“おいで藉真。お菓子をあげよう”
“い……、いらない……。呪われるから……”
“……そうか”
「残酷な言葉をはきました」
祖父は、そんな私を笑って許してくれた、優しい人であったのに。
「そして祖父が亡くなり、夾が生まれて。夾をとりまく環境を初めて第三者の目で見てとり……痛感しました」
愚かさ、残酷さ。そしてそれは……
「以前の私たちと何ら変わりのない、そっくり同じなんだと。
……ですから、償うように彼を引きとり、そうする事で俺の罪悪心を消したかったのかもしれません。
……けれど……」
けれど、共に暮らし、共に生きて
「いつしか……愛しさが生まれて……」
“師匠ー!”
笑う彼を見る度に、愛しさが広がって。
心配で。
誰よりも倖せになってほしくて。
「まるで、父親になったような気持ちで……。
今回のように、あの子の意志を無視し、数珠を奪い、一方的な私の気持ちを押し付けた」
“ 師匠は俺の親父なんかじゃねぇよ!!”
夾にとってみれば、重荷になるこの気持ち。
「ですから、わからないのですよ。なんと声をかければよいのか。
……エゴを押しつけておいて、「良かった」というには……」
あまりにも、勝手すぎて
「それに私は、「きっかけ」を作っただけ。夾を救ってくださったのは……貴女方だ。
……貴女がいてくださったから、夾は……」
「……師匠さん。それは、本当にエゴなんでしょうか……。私は何だか今とても……暖かい気持ちです。
本当にエゴなら、夾君のことを思う師匠さんの顔は、そんなに優しいものにはならないと思うんです。
そんな師匠さんが、私にはとても……「お父さん」に見えます」
191人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「原作沿い」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
言ノ葉(プロフ) - ゆえさん» コメントありがとうございます!これからもワクワクした気持ちで読んでいただけるように精進致します!作品は今拾弐まで続いておりますので、引き続き読んでいただけると嬉しいです! (2020年12月27日 21時) (レス) id: ebcac45cbc (このIDを非表示/違反報告)
ゆえ(プロフ) - 大好きなお話に巡りあえてわくわくした気持ちで読み進めています、とある少女の話での第三者からみた二人の姿がとても良くて感動しました。 (2020年12月27日 17時) (レス) id: 8e1c7d7280 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:言ノ葉 | 作成日時:2020年8月19日 12時