第36話「貴女がいてくださったから」 ページ38
「どうも事故じゃないらしいわよ」
「まだハッキリとは分かってないらしいけどね」
「猫憑きの子を持った事を苦に……か」
「可哀想に」
「猫憑きの子どもさえ産まなけりゃあ、こんなことには……」
「……だまれ」
「泣きもしないよあの子」
「母親が死んだって言うのに」
「自分が追い込ませたくせに」
「……だまれ……っ。おれのせいじゃない!!
おれのせいなんかじゃないんだ!!」
「そうだね。分かっているさ……」
「…………っ」
「初めまして。私は草摩藉真。」
「おれのせいじゃない……っ。おれのせいじゃない…………!!おれのせいじゃ……」
「ー……大丈夫。
大丈夫だ。わかっているよ」
「…………っ」
初めて俺に優しく声をかけてくれた人。
“大丈夫”と、俺の事を分かろうとしてくれた人。
その時、俺は初めて誰かの前でボロボロと泣いた。
「夾……?私と一緒に暮らさないかい……?」
これが、俺と師匠の出会いだった。
「私はこれでも空手の道場の師範なんだ。
おまえも興味があるならやってみるといい」
この人がどうして俺を引きとる気になったのか。
同情なのか、命令だったのかわからなかった。
「みて……夾よ」
「本当に藉真君が引き取ったのね」
「でも、いくら父親の手にあまるからって藉真君が可哀想だわ……」
「本当……。まだ若いのによりによってあんな……」
「…………っ」
「夾」
「!?」
まるで父親がするように高く抱き上げられた。
空がぐんと高くなって、初めて雲を掴めそうだと思った。
「これからは、もっと高い処の空気を吸っていかなくてはいけないね?」
同情なのか命令なのか、わからなかったけれど。
こんな風に誰かに抱き上げられたのは、初めてだった
「なぁ、なぁ!あれなんだ!?」
「電車だよ」
「でっ、でんしゃっ!」
俺に初めて「外」の世界を見せてくれた人。
俺の手を引いて、俺の側にいてくれた人。
「な、なぁ!アンタってししょーなんだな!」
「え?」
「TVでカラテの先生をししょーって言ってたっ。だから、アンタはししょーだなっ!」
「あははっ。確かにそうかもしれないね。
でも門下生は誰もそんな風には呼んでくれないなぁ」
「………………」
191人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「原作沿い」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
言ノ葉(プロフ) - ゆえさん» コメントありがとうございます!これからもワクワクした気持ちで読んでいただけるように精進致します!作品は今拾弐まで続いておりますので、引き続き読んでいただけると嬉しいです! (2020年12月27日 21時) (レス) id: ebcac45cbc (このIDを非表示/違反報告)
ゆえ(プロフ) - 大好きなお話に巡りあえてわくわくした気持ちで読み進めています、とある少女の話での第三者からみた二人の姿がとても良くて感動しました。 (2020年12月27日 17時) (レス) id: 8e1c7d7280 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:言ノ葉 | 作成日時:2020年8月19日 12時