第30話「大切なのは……」 ページ1
杞紗が紫呉宅で生活するようになってから、三日が経つ。
その間、彼女はと言うと……。
「今日の朝ご飯は何がいいかな……」
「…………」
「ん?あ、杞紗ちゃん。起きたの?」
キュッと服を掴まれる感覚にAが振り返ると、杞紗が眠そうな目を擦って立っていた。
Aの問いにコクリと頷いて、とてとてとAの横にくっつく。
それを微笑ましく思いながら、Aは杞紗の頭を撫でた。
「それじゃ、ちょっとお手伝いしてくれる?」
(コクリ)
「あ。でもその前に……」
「?」
「着替えてからにしようか」
杞紗はAの言葉でようやくまだ自分がパジャマな事に気づいたらしく、ぴっ!と肩を震わせて慌てて着替えに走る。
それをクスッと笑ってから、Aは杞紗がお手伝い出来る所まで済ませてしまおうと包丁を手に取った。
ーあれから杞紗は、Aや透の側から離れない。
一生懸命二人の後をついていきながらも、家事をお手伝いしてくれる姿は何とも愛らしく、Aと透は杞紗が自分達に心を開いてくれている事をとても嬉しく思っていた。
今も杞紗は、Aが洗濯物を取り込む間トイレに向かった透を、じっとトイレの前で待っている。少し恥ずかしい気もするが、それも戻ってきた時の杞紗のきゅ……っと服の裾を掴む仕草で全て吹っ飛んでしまう。
「透ー、杞紗ちゃん。洗濯物乾いたよー」
「あ、はーい!杞紗さん、畳むのを手伝ってくださいますか?」
(コクリ)
三人仲睦まじく歩く姿を、居間にいる紫呉は何とも微笑ましそうに見つめている。
「なんかヒヨコみたいで、ほのぼのだねぇ」
「ウザくねぇのか……?ああいうの。俺はウザいぞ」
紫呉と夾が見つめる先には、相変わらずててて……っと二人の後ろをついてくる杞紗。
すると唐突にピタリと透が止まったと思うと、プルプルと耐えるように震え、むぎゅっと杞紗に抱きつき、Aも小さく「可愛い……っ」と呟きながら頭を撫でる。
「…………っ大好きです!!!」
「嬉しいみたいだよ」
「………………」
杞紗はされるがままだったが、抱きしめてくれる暖かさと頭を優しく撫でてくれる手に、甘えるようにそっと目を閉じる。
「……なんだかよくわかんねぇ。おい、腹減った」
「あ、はい!ただいま!」
「杞紗ちゃん、今夜は何食べよっか」
Aの問いかけに、杞紗は何度か口を開くものの、俯いてしまう。
「あ……」
「……杞紗ぁ、お前、自分の食いたいモンも言えねぇのか?」
「…………」
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言ノ葉(プロフ) - ゆえさん» コメントありがとうございます!これからもワクワクした気持ちで読んでいただけるように精進致します!作品は今拾弐まで続いておりますので、引き続き読んでいただけると嬉しいです! (2020年12月27日 21時) (レス) id: ebcac45cbc (このIDを非表示/違反報告)
ゆえ(プロフ) - 大好きなお話に巡りあえてわくわくした気持ちで読み進めています、とある少女の話での第三者からみた二人の姿がとても良くて感動しました。 (2020年12月27日 17時) (レス) id: 8e1c7d7280 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:言ノ葉 | 作成日時:2020年8月19日 12時