拝啓､猫神様｡参 (ページ35)

今日:11 hit、昨日:11 hit、合計:210,673 hit

6 ページ35

｢ありがとう｡ありがとう｡初めての贈り物だ｡嬉しい､嬉しい｡ありがとう｡ありがとう」

もうない目から､ポロポロポロポロ涙をこぼすの｡

そして旅人はそのままポックリ死んでしまいましたとさ

｢…みんな､笑ってた｡ボクはその中で､目をとじて､旅人の事を考えてみた｡

そして､思ったんだ｡

ああなんて､愛しいんだろう……って」

紅葉が語った物語に､由希も夾も口をとざす｡
紫呉は目を閉じてそっと語る紅葉の頭を撫でた｡

｢損とか､苦労とか､考えるだけムダだよ｡旅人はそんな事考えちゃいないもの｡

ただ………誰かにとってはそれがバカでも､ボクにとってはバカじゃないだけ｡誰かにとってはだましがいのある人でも､ボクはだまさないだけ｡
ボクは本当に喜ばせてあげたいと思うだけ｡

ユキは？キョーは？それでもやっぱり､バカだと思う？目を閉じて､何を思う？」

目を閉じて､何を……｡

ただ自分達の為に一生懸命な､あの子の笑顔｡
あの子の背中｡

ああ……なんて｡

＊＊＊＊＊＊＊

次の日､Aはスッキリと晴れた青空の下洗濯物を干していた｡
そこへやってきたのは夾｡

｢行ってやるよ」

｢え？あっ､夾君おは……｣

｢温泉､俺も行ってやるよ｣

｢……は？｣

｢俺は､お返しなんざ用意してねぇからな｡変わりに､クソ由希我慢して……行ってやるってんだよ｣

｢………………｣

｢……別に俺がいなくても､おめぇはいいかもしれねぇ…けどな…｣

｢……とに？｣

｢あ？｣

｢ほんとに……行ってくれるの？一緒に……｣

｢あ､ああ｣

俯いて洗濯のシーツをぎゅっと握りしめ俯いたAに､夾が声をかけようとした時だった｡

｢嬉しい……｡嬉しい……っ｣

｢！｣

｢夾君がいてくれた方が絶対楽しいよ……っ｡ありがとう……！嬉しい……！ありがとう……！｣

こんな感情を爆発させるAを見るのは初めてで､夾は一瞬固まってしまう｡
ただ一緒に行ってやると言っただけで､この世の誰よりも幸せそうな顔して｡

｢お前……お前ってほんと……｣

｢？｣

｢しょうがねぇなぁ……｣

夾は呆れたように笑うが､初めて見るどこか優しげも含むその笑顔に､Aは思わず見入ってしまう｡
しかしそんな二人の空気に可愛らしい声が響いた｡

｢夾が朝からモエモエしてるー！！」

｢してねぇよ！！｣

｢モエモエー！！｣

｢黙れ！！｣

　