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｢あれ？｣
｢一個だけね｣
登校早々､ありさと咲は由希の下駄箱を開けて不思議そうに呟いた｡
｢おかしいぜ｡王子様の下駄箱なら見れっと思ったのに｣
｢何をそんなに見たかったの？｣
｢漫画でよくあるじゃん｡チョコがドサドサ落ちてくるやつ｣
(そんな
突然｢よう王子｡下駄箱開けていいか？｣なんて言われるから何をするのかと思えば……｡と由希は心の中でやんわりと突っ込んだ｡
｢………わかったわ｡これは多分､カッコウの雛と同じ行為があった結果なのよ…｡
カッコウの雛が百舌鳥の卵を巣から落とすように､少女達は自分のチョコを目立たせる為､先に置いてあったチョコを捨てていったんだわ……｡
その証拠があのゴミ箱」
｢ああっ！捨ててあります！｣
｢ある意味ドサドサチョコが落ちてくるより凄い光景だね｣
下駄箱に設置されているゴミ箱を見ると､そこには溢れんばかりのチョコらしき包みが積み重なっていた｡
｢なんだよひでぇ事するなぁ」
｢そして最後に残ったチョコを狙う鷹がこの私」
｢食え食えそんなモン｣
｢あ､あのでもそれは由希君の……｣
｢勝手に食べてしまうのはちょっと…」
｢いいけど……｣
そう｡今日は女の子が一年で一番気合いの入れるイベント､バレンタインである｡
と言っても今年は１４日が土曜日なので､前日で平日の今日が一番盛り上がっているようだ｡
そんな空気を感じながら教室へ向かっていると､先に登校していた夾が歩いてきた｡
｢あ､夾君｣
｢よーっす｣
｢おう｣
ありさの挨拶に軽く返事をすると､由希の前で夾は足を止める｡
そしてお互いに暫し睨み合ったと思ったら､由希の前を阻むように壁を殴った｡
｢夾君……！｣
｢………………｣
｢………………｣
由希も夾も会話をすることなく､そのまま夾は歩いていってしまった｡
｢朝から闘争心剥き出しだな｣
｢そうかしら……｡珍しくナイーブな電波よ彼…｣
｢え？｣
｢なぃいぶぅ?なんだアイツ､落ちこんでんのか？」
｢混沌としている………」
由希のチョコを食べながらそう言った咲に､Aは心配そうに夾の背中を見る｡
確かに今朝も朝食も食べずに先に行ってしまった｡
｢まあ､私には関係ないわ｡Aちゃんと透君にさえ迷惑かけなければね」
｢それもそうだな｣
咲とありさはAと透を挟む形で抱きしめる｡
その暖かさに頬が緩みつつも､やはり夾のことが気になってしまうAだった｡
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作者名：言ノ葉 | 作者ホームページ：https://twitter.com/KotohaJNWEST?s=09
作成日時：2020年7月17日 13時
