拝啓､猫神様｡参 (ページ16)

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｢夾も好きだけど､由希は俺にとって､特別な奴だから｣

｢は､はぁ……｣

｢……あ｡潑春君｡お部屋通り過ぎてる｣

｢あ｡間違えた｣

(やっぱり方向音痴だったんだ……)

潑春は床に落ちた氷枕を拾い､正しい由希の部屋へと入る｡
そして枕を変えてやりながら､ゆっくりと話し出した｡

｢……ガキの頃は､由希の事大嫌いだったけど｣

｢それは､どうして……？｣

｢“鼠だから”

昔話であるだろ？子は丑の背に乗り宴へってやつ。あれで無意識に敵視してた｡
それに丑はバカで間抜けだから､そんな利用されるんだってガキのことから周りの大人に笑われてた｡もちろん､大人は冗談だっただろうけど｡

俺は潑春(俺)自身がバカで間抜けだって言われてる気がした｡それで卑屈になって､鼠のせいだって八つ当たりして､いつもイライラしてすぐキレる子どもだった｣

ブラックな人格が出始めたのも､この頃｡
両親もとても手を焼いて､ストレス発散のために武術を習わせたという｡

｢でも､発散なんてできなかった｡武術自体は楽しかったけど､相変わらず笑われることが多かった｡

そんなある日だ｡由希とバッタリ会った｡実はそれまで､言葉を交わした事がなかった｡俺はブチッと切れて､ためてたモン全部ぶちまけてた」

“てめぇなんか大っ嫌いだ!!
牛が笑われんのは鼠のせいだ!ヒキョーで汚い鼠のせいだ!全部全部鼠のせいだ!!
牛がマヌケなのも…バカなのも…!!

“…そう､なの?

「君」は､そうなの?

…本当に

“バカなの”?

“違う……。

違うよ､俺……俺……

バカじゃ………ない｡
バカじゃないよ……｡ ”

決めないで｡
俺の価値を勝手に決めて､笑わないで｡

“ ……うん｡わかった”

そう言って､由希は静かに笑った｡