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｢えっと……｣
｢放っておきな｡やりたいだけやらせておけばいいんだよ｡それに……｡
割って入っていらぬ火の粉を浴びるなんて絶対イヤ｡死んでもイヤ」
｢そ､そっか……｣
傍から見たらにこやかな笑顔なのに､どこか絶対零度を感じさせる由希｡
目の前で熱い戦いが繰り広げられているからか､余計に迫力がある｡
それにしても､先ほど会った彼は､とても礼儀正しく､落ち着いた印象があったと言うのに……｡
｢っだよそのパンチはぁ！！軽すぎて全っ然効かねーんだよ！！」
一度キレると､ああも人が変わってしまうとは｡草摩家はやはり､一筋縄ではいかない人達ばかりのようだ｡
｢調子のんな！おめーなんざなぁ､由希に比べりゃスッポンなんだよ！」
｢はっ｡じゃあ俺らより後に武術を習った由希に勝てねぇてめーはなんだよ｡修行までしといてカッコ悪ぃ」
｢っ！！｣
｢てめぇはスッポン以下だ｡緑ガメだ､アメンボだっ！！」
｢おめぇマジ地獄に落としたらぁ！！｣
｢｢っ！！｣｣
｢くっだらない｣
自身も武術を経験し､かつ見慣れているであろう由希は平然とそう言うが､Aと透は思わず顔を手で覆ってしまう｡
思えばここまで激しい殴り合いの喧嘩というのは見るのが始めてだった｡
見慣れない光景に少し身体が震えるが､そんな素人のA達でも一つだけ分かることがあった｡
｢でも､なんか……｣
｢夾君強いよ……？｣
｢ああ､うん｡春となら､夾の方が強いだろうね｡なんにせよ格闘バカには違いない｡昔っから二人とも楽しそうに武道を習っていたからね」
｢草摩くんも楽しくて習っていらしたのでしょう？」
｢強いもんね｣
｢さあ｡どうだったかな……｣
どこか遠い目でそう返した由希だったが､次の瞬間胸を抑えてしゃがみこんでしまう｡
スローモーションのように倒れていく由希をA達は呆然として見ていたが､直ぐに体を支えてしゃがみこむ｡
｢草摩君！？｣
｢どうしました？草摩君！｣
｢由希｡発作か？｣
｢発作……気管支の……？｣
｢ああ｡……すげぇ熱あるじゃんか｡カゼひいた時は気をつけなきゃだめだろ｡
とりあえずそこで寝てろ｡すぐ本家に連絡して……｣
着ていたコートを由希にかけながら立ち上がった潑春の靴を､由希が掴む｡そして苦しそうに息を吐きながら､何かを訴えるように首を横に振った｡
｢草摩君……！｣
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作者名：言ノ葉 | 作者ホームページ：https://twitter.com/KotohaJNWEST?s=09
作成日時：2020年7月17日 13時
