#08「許されたい」 ページ7
「お前、伝えたいの?それとも、言葉にするのから逃げたいの?」
梶のその言葉に、真冬は凍りついたように動かなかった。真冬の過去に何があったかは知らない。しかし、真冬が言葉を持てないのは、それだけの何かを過去に経験してしまったから。という事だけは何となく察しがついていた。
結局、真冬は梶の言葉には答えることが出来ないまま、バイクは2人を乗せて夜の道を走り出した。
向かい風で消えてしまいそうな真冬の声を聞きつつ道を走っていると、梶はふとあることに気づく。
(あれ?ここ、前も通った気がする)
自分の帰宅ルートとは全く違う。しかし、以前もこの道を通ったような。
そんな風に思っていると、次に見えてきた公園で納得がいった。
(ああそうか。Aを乗せた時だ)
偶然商店街でAを見かけてバイクで送って行った時、Aを降ろした公園だった。
(そう言えばこいつら幼なじみだって言ってたっけ)
もしかしたら家が近所なのかもしれない。
やがてバイクは、一棟のマンションの前に止まった。
「ほい。着いたぞ」
「はい。これ、ありがとうございました」
「おう」
真冬はバイクから降りると、借りたヘルメットと上着をそっと差し出す。
「歌詞できたらいつでも送れよ」
「はい」
そうして真冬はぺこりと頭を下げて帰っていった。
その後ろ姿を見つつ、梶はぼそりと呟く。
「……あと一週間か」
*******
「お帰りなさい、冬ちゃん」
「ただいま」
リビングにいたAは、ひょこっと顔を出して真冬を出迎える。
しかし真冬の様子を見て、心配そうに駆け寄った。
「何かあったの?」
「……A」
「ん?」
「俺は、何を伝えたいんだろ……。俺は、逃げてるのかな……」
「冬ちゃん……」
真冬は前髪をくしゃっと握って、苦しそうにそう呟いて俯く。
Aは、そんな真冬の空いていた左手を優しく握って、かける言葉を探した。
「……こんなこと言ったら、また冬ちゃん困らせるかもしれないけど」
「……?」
「私もね、わかんないの」
「え?」
「自分がどうして歌を作るのか、なんの為に歌ってるのか。時々わからなくなる」
「一緒だね」とAは優しく笑う。
握ってる手をゆらゆらと揺らしながら、Aは子守唄のように静かに続けた。
「分からないから、それを一生懸命探すの。分かるまで、ずっと。私も冬ちゃんも、いつか見つけられる。本当に伝えたいこと」
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に - 最近ギヴンにハマった20代ですが、こちらの小説ほんっっっとうに最高です!!!!夢主の行動・気持ち・考えなど文からとても伝わってきて読みやすいです。お忙しいと思いますが、完結に向けて頑張ってください。楽しみにしております!! (2020年4月30日 13時) (レス) id: e8737ae1a9 (このIDを非表示/違反報告)
美咲 - アニメ終わって落ち込んでたら、映画っ!嬉しすぎて……2020年まで頑張っていけそうです!言ノ葉さん最終話までお疲れ様でした!番外?リクエストも更新、楽しみにしてます!に (2019年9月20日 15時) (レス) id: 7ef2d991dc (このIDを非表示/違反報告)
蓮華 - はじめまして!梶さんと春樹とのお話を書いてほしいです! (2019年9月20日 10時) (レス) id: eb587ffa62 (このIDを非表示/違反報告)
神夜(プロフ) - マシュマロが通信制限で使用出来ないのでボードの方に感想、リクエスト書かせて頂きました。御手数ですが見て頂けると嬉しいですよろしくお願いします。 (2019年9月18日 5時) (レス) id: 1c640baa7c (このIDを非表示/違反報告)
言ノ葉(プロフ) - 美咲さん» コメントありがとうございます!雨月さんめっちゃ美人ですよね……。10話の耳かけスタイルがとても色気爆誕でやばかったです…… (2019年9月16日 21時) (レス) id: 50b948882d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:言ノ葉 | 作成日時:2019年8月30日 15時