第10話 ページ10
七辻屋の饅頭を買って家に帰ると、Aはやはり窓の外を見ていた。
何を考えているのだろう。
……もしかしたら浅葱さん、なのだろうか。
「ただいま」
「ああ、おかえり」
Aは気づいていたのか、俺の声に驚くこともなく答える。
「七辻屋の饅頭買ってきたぞ。ここのは美味いんだ」
「…七辻屋」
「店の名前だよ。ほら、」
袋から饅頭をひとつ取り出して、Aに手渡す。
Aはそれを受け取ると静かに食べだした。饅頭を一口食べ終わったところで、Aの目が少しだけ輝いたのが分かった。相変わらずの無表情ではあったが。
「……美味い」
「だろ?俺も先生も、七辻屋の饅頭は好きなんだ」
初めて会ってから3、4日ほど経った。Aはほぼ無表情であるが、目が少し輝いたり昔を思い出して切なそうにするのを見るに、人を信じられた時はもっと感情が豊かだったのかもしれない。
「…本当に、美味い……
………浅葱にも、食べさせてやりたいな」
小さく零した言葉だったが、部屋は静かなため、俺と先生に聞こえるには十分だった。
無意識だったらしいAは、自分の発言に驚いたのか目を見開いた。
「A…」
「ぁ、いや…これは、」
更科浅葱という名前を聞いて、Aの目に浮かぶのは悲しみと怒りだった。
だから俺はその人の事を恨んでいるのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
いや、恨んではいるのだろう。だがそれ以上に、Aは浅葱さんをとても慕っていたのだと思う。
1度助けたカラスとの縁だ。
ならば最後まで助けたい。
「…なぁ、A。浅葱さんの事、探しているんだろう?」
「…っ」
「俺も協力するよ。…浅葱さんは、もうこの世にはいないけれど、手がかり位はあるかもしれない」
「!…夏目、」
Aは少し驚いた顔をした。だがその目に映ったのは、多分安堵だった。
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ここ - なんで面白いとこで止めるんですかあああああ続きをください!!!!更新待ってます!! (2018年10月6日 23時) (レス) id: 13a4e8f4bd (このIDを非表示/違反報告)
時雨 - 鈴木さん» いえ、私が単にあまり読んでないんで知らないだけかと…。これからも更新頑張ってください!! (2017年2月20日 14時) (レス) id: bb18c895b3 (このIDを非表示/違反報告)
鈴木(プロフ) - 時雨さん» ありがとうございます!妖怪主多いと思ってたんですが少ないんですね… (2017年2月9日 9時) (レス) id: 6735b4f99f (このIDを非表示/違反報告)
時雨 - 妖怪主は初めて見ました!凄く面白いです!続き楽しみに待ってます(`・ ω・´)ゞビシッ!! (2017年2月9日 8時) (レス) id: bb18c895b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鈴木 | 作成日時:2017年1月2日 13時