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貴女side
貴「すみません、研修明けで疲れてるのに」
何度も来慣れた健人さんの部屋。
私が来るようになってから少しだけ生活感が出て
何にもなかったキッチンにも、
紅茶やコーヒーといったものがセットされてて
わざわざ飲み物を用意してくれる健人さんの姿も
もう何回見ただろう。
健「Aも体育祭終わってすぐなんだし、お互い様」
テーブルに紅茶を置いて
こちらにそっと歩み寄って、すぐそばまで来てくれる。
手のひらがそっと髪に触れようとする。
いつもなら気にしない健人さんのそんな仕草に
少し、ビクついてしまって
半歩、後ろに足を動かしてしまう。
やってしまった。
行き場を無くした健人さんの左手がきゅっと握りしめられて
こちらに向けられる視線が寂しそうなものに変わる。
相手は健人さん。誰よりもこちらの仕草に敏感で
1番、やっちゃいけなかった。
それなのに
健「本当に元気そうでよかった。
倒れたこと、気になってたから
本当に何もなくて良かった。」
心底安心したように優しく微笑んでくれる。
貴「心配かけてごめんなさい」
健「そこは“ありがとう”でいいんだよ」
どこまでも綺麗で、優しい健人さんの言葉に、瞳に、
今でもどこか嬉しいと思ってしまう自分がいる。
こんな中途半端な自分のために
ここまでしてくれる健人さんの優しさが
嬉しいのに
罪悪感からか、酷く痛く突き刺さる。
貴「ごめんなさい、健人さん、、私、」
泣くのは私じゃない。
泣いていい立場じゃない。
私は、
貴「健人さんのことを、
裏切って、ごめんなさい」
伝えないといけないことがある。
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作者名:arry | 作成日時:2023年10月28日 0時