百十五話 ページ23
声を出さないように口を抑えながら首を横に振る。
無理です！と訴えるように首を振る。
胡｢ここにはいらっしゃいませんよ。
今日はお帰りください、冨岡さん。｣
冨｢………｣
足音が遠ざかっていく。
はぁ、と息をつく。
カ｢……大丈夫？｣
『無理やり連れてきてごめんね。』
カナヲが少し嬉しそうなものを私に向けた。
よく分からないけれど、嫌じゃないようなら良かった。
炭｢あっ、そ、その…A…！？｣
『ご、ごめんなさい…』
炭治郎の服から手を離す。
少しだけ顔が熱くなった気がする。
『し、しのぶさんに服を返そうと思って、ですね…』
胡｢あら、もうよろしいのですか？｣
『…今度は、自分で買います。』
胡｢……わかりました。｣
しのぶさんは微笑んでくれた。
それに心が暖かくなっていく気がする。
胡｢では、炭治郎くん、またお話しましょう。｣
炭｢は、はい。｣
炭治郎が部屋を出ようとわたわたと動く。
あ、と思い立って、炭治郎の腕を掴む。
『私の簪、持ってて』
炭｢……っ、あぁ、わかった｣
私から簪を受け取ると部屋から離れていった。
…………それから、服を返して隊服に戻したが、簪を取りに行く前にご飯になってしまい、取りに行けなかった。
その後、みんなに聞いて回るも、すれ違うだけでなかなかたどりつけなかった。
怪我人がいる中で大声で叫ぶわけにもいかない。
あ、と思い出して屋根へと登るが、炭治郎はいなかった。
『思い出にしてるのは、私だけ、か。』
………あぁ、月が綺麗だ。
私は少し寂しいと感じているみたいだ。
他の人には感じないのに、炭治郎にだけ。
炭治郎だけに感じるものは沢山ある。
炭治郎は他の人より大切に感じるし、守りたいと思う。
あの人には…死んで欲しくない。
もしかして、私は、無意識に炭治郎を主としてるのかもしれない。
…恋してるのかもしれない。
『思ったより、私は冷静でいられるんだ。』
この感情に名前がつけられた事が嬉しくて顔が少し緩んだ。
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作者名：エアー | 作成日時：2020年5月22日 14時
