【イナアレ】島柄長 (ページ12)

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第5話彼女の事情 2 ページ12

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「…もし、アツヤくんを引っ張ってくれる選手がいてくれたら……。」

そんな千鳥の呟きに、染岡は薄く笑って「そうだな、白恋の殻を破る起爆剤になってくれるかもしれないな。」と返した。

「ま、今はもしものことを考えたって仕方ねえ。今の部員たちに、アツヤたちに並ぶくらい強くなってもらうしかないさ。」
「…そうですよね。」

染岡の言葉に、千鳥も眉を八の字にして笑う。染岡の言っていることはもっともだ。ならば早く練習に戻らなければ。

「お、おい。もう運動して大丈夫なのか？」

ベッドから立ち上がろうとした千鳥に慌てて染岡は声をかける。千鳥はにっこり笑顔で「全然大丈夫です！」と返した。

千鳥はそのまま保健室の出口を目指す。しかし、その後に染岡は続かない。不思議に思った千鳥は振り返って「染岡さん？」と尋ねた。染岡はなにやらじっと自分を見つめている。

「あの…何か？」
「千鳥、頑張るのはいいが、無理するなよ。」

染岡の口から出た言葉に千鳥は目を丸くする。先ほど倒れたのは、別に無理をしていたわけではなく単に頭にボールがぶつかっただけだというのに。

「……お前が部活後も一人で練習してるのは知ってる。お前の事情もな。」
「！！」
「だが、無理をしてこの前みたいに体を壊しちゃ本末転倒だ。ほどほどにしておけよ。」

染岡はそう言うと、千鳥の横を通って保健室を出て行った。通りざまに千鳥の肩をぽんと叩いて。

「……。」

対して、千鳥はしばらくその場を動けなかった。

(染岡さん、どうして知ってたんだろう。士郎くんが話したのかな……。)

彼は自分の事情を知っていると言った。それはあの兄弟以外には話していなかったというのに。
けれど、染岡が自分の事情を知っていたところでなにが変わるわけでもない。

(体を壊したら元も子もない。それは知ってる。……それでも、わたしは……。)

千鳥はぐっと拳を握り締める。彼女の目は何かを決意するように、しかしそれでいて悲しげに揺れていた。

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