むすんでほどけて【コラボ企画】 (ページ29)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:9,723 hit

格差ジレンマ。＊雨宮しおりページ29

.

「A、おまえまたボスに呼ばれてるぞ」

「あ、はい！わかりました、ありがとうございます！」

先程まで会議室にいたはずの上司に怪訝そうな目を向けられながらそう言われたので、私は座っていた椅子から立ち上がって、作成中の書類をファイルの中にまとめて片付けた。

私の会社は理事や社長なんかよりも、会社全体の後ろ盾となってくれているボスと呼ばれる人物の方が影響力や力が強い傾向にある。年に一度行われる社員が参加できるパーティーで話した時にそんな事をお偉いさんたちが言っていたし、多分きっとそれは本当のことだ。機嫌をとるのが大変、とかも言ってたし。

だけどそれもそのはずで、噂によるとうちの会社のボスはマフィアのお偉いさんで裏社会の人間という話だ。しかも兄弟も裏社会の人間らしい。聞いただけでも分かるだろう。これ関わっちゃいけない人だなって。けれど私はやらかしてしまったのだ。その人物に好かれてしまった。

だって、道迷ってそうだったから話しかけて、薄着だったし寒いって言ってたから持ってたカイロあげたら、なんか目つけられちゃったんだもん！！困った人は助けるべきだって習っちゃったんだからそんな風にしちゃうのもしょうがないでしょ！！

若干泣きそうになりながら、私は呼ばれたらしいので貴賓室に向かった。

私は平凡な社員であり、部長や課長などでもない一般等級の役職だから、余計怪しく思ってしまうのだろう。最近週に一度のペースで呼ばれるせいで、上司は私のことをそんな風な目で見てくる。疑いや戸惑いが混じった目だが、明らかにボスに媚びを売ったと誤解して少し私を遠巻きに見ているようだし、全く踏んだり蹴ったりである。めちゃ迷惑。

自分より上の人に仕事を褒められて気に入られるのは嬉しいけれど、でもよく分からない理由でボスに気に入られても嬉しくない。ていうか、本当になんで私こんなに呼び出されてるの。なんなの、営業妨害なの。

そんなことを考えていたら、もうボスがいる貴賓室についてしまった。私がいた部屋からそこまで近くないはずなのに、もう着いてしまった。時間が早く感じるだなんて、自分が会いに行くのを嫌がっているという決定的な証拠だな。絶対これボスには言えない。

控えめにノックして「失礼します」と声をかけながらドアを開ける。すると、足を組んでこちらを見ている明らかにオーラが凄い人物と目が合った。

「よぉ、Aチャン」

「こ、こんにちは……」

上機嫌なボスに反して、私の心はヒヤヒヤだった。