むすんでほどけて【コラボ企画】 (ページ1)

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貴方の全てが甘い＊いちたにページ1

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ひっそりと、階段の隣にある一つの教室のドアを叩く。
返ってきた小さな声を確認して、私はカラカラとドアを引いて中へと入った。

「志麻先輩、お疲れ様です。ココア買ってきました」

「お、ありがとう」

生徒会室の奥に置いてある少しだけ大きな椅子に座る志麻先輩は、一瞬こちらに顔を向けてから手元の作業へと意識を戻した。メガネ越しに伏せられた長いまつ毛が揺れたのが見えて、そのままレンズに付いてしまうんじゃないかなんて思った。

「なに？おもろないで生徒会の資料なんて」

「……面白いですよ」

手を動かしたままの先輩がそう言う。どうやら資料を覗いていたのだと思われたらしい。無意識に先輩の顔にフォーカスしていた視線を、慌てて下へとずらした。

「こっち来たらいいやん。そんなとこ立ってないで」

ガタガタと雑な音を立てながら近くの椅子を引っ張って、自分のすぐ隣へと私を誘う。資料なんて微塵も興味が無いけれど、役員ではない私を部屋に招き入れてその上居座らせてくれるのだから、隣に行かない理由などはない。
教室によくある硬い椅子に腰を下ろして、手元を覗くのが目的かのように体を寄せた。

「生徒会室なんですし、もっと良い椅子にしましょうよ。今度提案してみてください」

「書記の俺にそんな権限ないって〜」

笑いながらもペンを進める紙の中身は生徒会らしくやっぱりなんだか難しそうで、あまり理解も出来ないまま、ただぼうっとそれを見つめた。というか何も関係のない私が見ちゃって大丈夫な物なんだろうか。こうやって何度も出入りしている時点でそこそこ手遅れだとは思うけれど。

彼が動いた時、私が寄った時、微かに香る先輩の香りに、すぐ側にあるふっくらとした唇に、目が眩みそうになる。甘いような爽やかなような、なんだかよくわからない匂い。香水かなと思ったけれど前に嗅がせてもらったのとは違う物な気がする。

「先輩、あの」

「なに？」

「いやっ、なんでも、ないです……」

香りについて聞こうと思ったのだが、なんだか急にはばかられてしまって思わず口を噤む。彼は私が差し入れたココアを飲みながらもう少しで終わるからと微笑んだ。
外の音が漏れ出ている窓からは眩しいほどの夕日が差し込んで教室を照らしていた。