５９馬鹿 くしゃみの原因は噂か風邪か ページ9
私がそう促すと綾部は先ほどの暗い顔を晴れさせながら席をたった。
そして私に向き合い口を開いた。
「話を聞いて下さってありがとうございました。おかげで気が晴れました」
「そりゃあ、良かった」
「あ、そうだ。今度は僕とも手合せしてくださいね〜」
その言葉を聞いて今まさに口に入れようとしたあんかけ豆腐をポトリと床に落としてしまった。
私は急いで豆腐を拾うともうそこに綾部の姿はなかった。
「あいつ、言いたいことだけ言いやがって……手合せとかマジで勘弁してくれ」
私のその呟きは広い食堂でむなしく響く。
私に平穏は訪れないのか……
そう思いながら残りの豆腐定食を口にしたのだった。
その頃綾部喜八郎の方はというと……
「あれ喜八郎。お前やけに機嫌がいいな?」
「珍しいな?」
「何かあったの?」
上から滝夜叉丸、三木エ門、タカ丸が級友である喜八郎に声をかける。
「……別に〜、ちょっとあの人と話してきただけ〜」
「あの人?」
「あっ!秋里Aさんの事だね」
タカ丸がそう声をあげると喜八郎は「だぁいせぇかい」と言った。
滝夜叉丸も名前を出されて「あぁ」と口に出した。
「あの人か……もう一度手合せ願いたいものだ。今度こそ私が勝って見せる!」
「ダメ、僕が先に手合せを頼んだんだから滝は僕の後だよ」
「滝夜叉丸は、一度も二度も変わらないだろう?」
「何だと!?」
「喧嘩はダメだよ〜」
滝夜叉丸と三木エ門が喧嘩を始めようとしたのを止めるタカ丸。
そんな三人を見ながら喜八郎は空を見上げた。
「そうだ、今度は作法委員会に誘ってみよう」
その小さな呟きは風と共に空へと吸い込まれていった。
その頃食堂では……
「ぶえっくしょん!!!!」
定食を完食し洗い物をしていたAが盛大にくしゃみをしていた。
くしゃみで出た鼻水をズズッと啜る。そして鼻の下を指でこすりながら一人ごちた。
「誰か私の噂でもしてんのか?」
そう呟いてAは洗い物を再開した。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2016年1月30日 13時
