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「グアッ!!?」
男の低いその声に、私はゆっくり目を開けると私の右手を掴んでいた男がふっ飛ばされていた。
そして、私の肩の近くには暗くて顔は見えないがスーツを着た男の人が立っている。
「か弱い女を大勢で襲うなんて……お前ら、やって良い事と悪い事の区別もつかへんのか?」
「Esto, a este tipo!?(こ、こいつ!?)」
聞き覚えのある関西弁とその声。
私は静かに涙をこぼす。
男はそんな私に気付いていないのか、ガタガタとみっともなく体を震わせている。
そんな男共に、あの人は口を開いた。
「これ以上俺の国を汚さんでくれへんかな?」
静かな口調だけども、その声色には確かに怒りの感情が見え隠れしている。
それが分かったのか男共は蜘蛛の子を散らすかのように、私から離れ暗い路地の向こうへと消えていった。
「お嬢さん大丈夫か? 怪我はしとらんか?」
彼が私を見下ろしながら手を差し出す。
その言葉にさえ、私は涙を流してしまう。
私、こんなに涙もろかったっけ?
肩を震わす私に気付き、彼は私と目線を合わすようにしゃがんだ。
その時、厚い雲で隠れていた月が、顔を覗かせ辺りは月光に包まれた。
そのおかげで、私は彼の顔をハッキリ見る事が出来た。
今私の目の前の彼は、五年間待ち続け、三ヶ月探し続けた人その人だった。
彼も、私を覚えていてくれたのか目を見開いて私を見つめる。
「お、ま……ホントに、Aなんか!?」
「グスッ……そう、だよ。覚え、てくれてたんだ、ね。アン、トーニョ」
そう彼の名前を口にするとアントーニョは私を力強く抱きしめた。
息が苦しくなるほどの力だが、私はその力さえも嬉しく気持ちになる。
私はアントーニョの肩に頬を寄せホロホロと涙を流す。
しばらくはそのままでいたが、流石にこのままでいるのは少しアレな為いったん私が泊まっているホテルへと移動した。
部屋のベッドに二人して腰かけると、泣いたせいで赤くなった瞳を私の方に向けアントーニョが口を開く。
「A……なんであの時、俺の前からおらんくなったんや。あれから、俺あっちこっち探し回ったんやで」
「……今から私が言うこと信じてくれる?」
「Aの話を信じないわけないやん……親分にホントの事教えてぇや」
そう言って優し気に目を細め私を見つめるアントーニョに、私は一つ笑みを浮かべて口を開いた。
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作者名:長月シキカ | 作成日時:2017年7月13日 22時