＃５３ ページ5
約十四時間飛行機の中で過ごし、ようやっとたどり着いた私ははるか国であるス/ペ/イ/ンの地を踏みしめた。
スペインの空港を出て私は、携帯でアベルさんと一緒に働いたあのお店の名前を打ち込むと、数件ヒットした。
その中から、私の記憶にある外装と一致するお店を探す。
あれから何年もたっているから外装くらいは変わっているんだろうな。
少しだけそう心配するが、私のその心配は杞憂に終わった。
検索画面には、あの時となんら変わらないお店の写真が載せられていたのだ。
「良かった。ここから近いや」
私はそのお店のホームページから地図を見て、安堵の息をこぼす。
そのまま携帯の画面を頼りに空港を離れていった。
周りの景色はあの時過ごしていた時とはやっぱり変わっていた。
そんな当たり前なことなのに、私はどうしようもなく不安な気持ちになった。
私は、そんな気持ちを振り払うように頭を左右に振る。
大丈夫……きっと、会える。
大丈夫大丈夫と心に言い聞かせながら、私は歩みを進めていく。
すると、どことなく見覚えのある場所に出た。
「ここは……あの時初めて目を覚めた路地裏……? という事は、もうすぐでアベルさんのお店かな」
そうあたりをつけ、私は止めていた足を動かし始めた。
しばらく歩いていると、ようやくお目当ての場所にたどり着いた。
「着いた……懐かしいなぁ」
私はお店の扉の前で見上げる。
ここで数か月お世話になったんだよな。
そういえば、アベルさんにお礼も何も言わずに帰っちゃったんだよね。
とても良くしてくれたのに、と私は後悔の念に押しつぶされそうになる。
「とにかく、アントーニョに会おう。そうすれば、アベルさんのお墓とかそう言うのを教えてくれるかもしれないし」
そう結論づけ、私はそのお店の扉に手をかけた。
「Bienvenida!(いらっしゃいませ!)」
店員さんの元気な声が店内に響く。
私は適当な席に腰を下ろし、店員さんが持ってきてくれたメニューに目を通す。
メニュー、ほとんど変わってないな。
私はメニューを懐かし気に眺めて、料理を一品頼んだ。
お待たせしましたとスペイン語で言う店員さんが運んでくれたのは美味しそうなガスパチョだ。
料理を運んでくれた店員さんにお礼を言って、私はスープを一口飲む。
「美味しい……」
思わずこぼれ出る本音に、私はおっとと口を手で覆う。
しかし、私の小さな声は広い店内ではあまり響くことは無かった。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2017年7月13日 22時
