110話 ページ10
あれだけの戦いを繰り広げておきながらその力をひけらかすことなく謙遜するなんて、なんて謙虚な人なのだろう。
ほんのりと顔をピンクにしながら照れたように微笑む緑谷君を見ながらそう思いつつ、早速本題に入る。
しかし、今回はいつもの質問をする前に彼にだけ聞きたいことがあるのだ。
「さて、緑谷君。君と戦った心操人使君の事は覚えていらっしゃいますか?」
「へ? う、うん。あの紫髪で洗脳って凄い個性を持った人だよね」
「えぇそうです。彼の個性凄いですよね。私、彼とは同じ中学出身でして――彼の個性の凄さは他人よりも理解しているつもりなんですよ」
ニコリと笑みを深め言葉を続けながら半歩前に出てみると、緑谷君は逆に半歩分後ずさった。
話を早く聞きたいあまりに、意図せず犯人を追い詰める警察みたいに威圧してしまう形になってしまった。
多少申し訳ないという気持ちはあるが、このまま話を続けるとしよう。
「彼の個性にかかった君なら分かると思うのですが……いえ前置きはここまでにして、単刀直入にお聞きしますね」
口元に笑みを携えたまま、自身の目の前で立ちすくむ緑谷君を見据える。
私よりもやや背の高い緑谷君のきょとんとした顔を見上げながら、私は本題を切り出した。
「緑谷君。君は彼の個性をどうやって切り抜けたんです?」
「えっ?」
私の発したこの質問に緑谷君の表情は、きょとん顔から大きく目を見開いた驚き顔へと変貌する。
驚愕の表情を浮かべながら言葉を詰まらせる彼の姿は、私の目には少しばかり異様に映った。
私がした問いは、そんなに変なものだっただろうか。
事前にしていた予想では己が個性のせいと答えると思ったのだが、彼の様子だとそんな簡単な答えではなさそうだ。
まるで秘密を打ち明けようとする子供のように視線を彷徨わせながら言葉を探している彼の姿に、徐々に罪悪感のような感情が沸きあがってくる。
もしかしたら、私はとんでもないことを聞いてしまったのではなかろうか。
私にだって無理に聞かれたくない秘密があるというのに、人使君の為になる情報を収集するという目的の完遂に目を向けすぎていたせいで大事な事を見落としてしまっていた。
「ごめんなさい、緑谷君。言えないのなら無理には聞きません。不快な思いをさせてしまって本当にごめんなさい」
そう言い終えると、私は九十度よりも深い位置まで頭を下げた。
謝ってすむ問題ではないのは百も承知だが、今の自分にはこれしか出来ないのだ。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2023年11月18日 17時
