107話 ページ7
視線を向けた先にいる爆豪君は眉間に深い深い皺を刻み険しい表情を浮かべこちらを見て――いや睨みつけている。
その目線だけでも敵を倒せるんじゃないか、なんてことを思っていると、ふいに爆豪君が大きく舌を打った。
「てめぇの自己満足に俺を巻き込むんじゃねぇ」
「申し訳ありませんが、彼の糧の為に巻き込まれてください」
「おめぇの顔の横についてんのは飾りか! クソがっ!」
片手でガシガシと乱暴に自身の頭を掻きながらそう吼える爆豪君に、私はニコリと笑みを深める。
そんな私の笑みに苛ついたのか、彼は再び強く舌を打った。
「だいたい、俺の話を聞いたところでそいつの為にはなんねぇだろうが!」
怒りと苛立ちの混じった声色でそう噛みついてくる彼の言葉の意味が分からず、かくりと首を傾げる私に更に苛立ったように三度舌を打ち語りだした。
「俺のトレーニングは、この俺に合うよう調整してんだ。それをそっくりそのままそいつに話してやったとて、それがそいつの身になると本気で思っとんのか?」
「あぁ、その事ですか。勿論、爆豪君の話をそのまま全部伝えるつもりはありませんよ。私はあくまで、こういうのもあるよと選択肢を与えてあげたいだけです」
「選択肢ねぇ。過剰な情報は思考を狭めるとしてもか?」
「確かにあまりに多い情報は視野を狭めることでしょう。だからこそ、取捨選択するんです。貴方から聞いたことの全ての何が彼にとって必要なのかどうかを」
緩やかに弧を描いていた口元を真一文字に引き締め、真っ直ぐ彼の炎が燃えるような赤い色をした瞳を見つめる。
その目が若干細められたかと思うと、彼は心底馬鹿にするかのように鼻で笑った。
「随分とそいつの事を知ったかのように言いやがんだな」
「少なくとも、そこらの人よりは分かっているつもりですよ私は。……彼はいずれヒーローになる、その為には色々情報が必要なんです。だから、お願いします」
きっちり九十度のお辞儀をして、彼の返答を待つ。
視線を下へと向けたせいで彼がどんな表情をしているか分からず、今更ながら恐ろしいという感情が少しだけ湧いてくる。
しかし、こうやって頭を下げたところで爆豪君の性質を見るに状況が変わるわけが――。
「五分」
「え?」
先程までとは違い怒気の感じられない声音で落とされた爆豪君の声に、床へと向けていた視線を持ち上げる。
やおらと向けたその先には、相変わらず眉間に深い皺を刻んだ爆豪君がふんぞり返っていた。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2023年11月18日 17時
