105話 ページ5
瀬呂君から聞いたことを人使君に伝えてから数日後が経ち、彼は今日も自主トレに励んでいる。
あの体育祭から、人使君はいつも以上にやる気に満ちており生傷が絶えない日々を送っている。
そんな彼と一緒にいられるのは、もう昼休みの時間くらいしかない。
今日昼休みに食堂で会った人使君のその頬には大きなガーゼ、口の端には絆創膏が張り付けられて見るだけで痛々しいものだ。
その怪我の痛々しさに大丈夫かと問うたが、彼から返ってくる言葉はいつも"大丈夫"の一言だった。
なんでも彼が言うには、ヒーロー科の編入届を出し今はヒーロー科編入希望者となりヒーロー科の先生の手によって特訓をつけて貰っているらしい。
この雄英は教師全員がプロヒーローとして活動している人ばかりだ、そりゃあこんな痛々しい怪我もするわな。
彼の身につく怪我は心配だが、これも彼がヒーローになる為には必要な過程なのだ。
そんな彼にどうこう言う権利のない私にできることなど、せいぜい彼へ簡単な手当てをしたり有益な情報を掴みそれを伝える事しかない。
だからこそ私は、大切で大好きな人使君の為に今日も放課後に目当てのヒーロー科の生徒を探すのだ。
＊
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＊
「い、今がチャンスか」
ある日の放課後、明らかに不機嫌そうな雰囲気を漂わせながら廊下を歩く男子生徒――爆豪君の後姿を壁から覗き見る。
今から私は、あの男から話を聞かなければならないのか。
いや、全ては人使君の為だ。勇気を出せ仁口A!
「さっきからジロジロ見てやがんのはどこのどいつだこらぁっ!」
「ひょえあっ!?」
突然の放たれた怒号に自然と体が飛び上がり、隠れていた壁の影から躍り出てしまう。
空気がビリビリと震えるような怒号の発生源は勿論爆豪君であり、その怒号に似合いの形相で私を睨みつけている。
私の姿を視界に収めた爆豪君は、目を吊り上げさせながらチィッと渾身の舌打ちを一つ落とした。
はっきり言って滅茶苦茶に怖いんだが、本当に彼はヒーローを目指しているのかといささか疑問に思う。
「あ˝ぁ? 誰だてめぇは」
「お、初にお目に、かかります。私、普通科の仁口と申します」
「普通科だぁ? 雑魚が俺に何の用だ?」
不遜な態度で私を見下ろす爆豪君に、恐怖を押し殺しつつ私はポケットに入れていたメモ帳とペンを取り出しながら口を開く。
「あ、あなたの強さの秘訣をよろしければお教え願いたいのです」
そう勇気を出して紡いだ言葉に対して、爆豪君の答えは――。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2023年11月18日 17時
