104話 ページ4
心の中で自身の想いに蓋をしつつ、私は笑みを携えたまま瀬呂君へ言葉を放つ。
「この度はお時間をくださりありがとうこざいました。おかげで貴重なお話を聞くことが出来ました」
「んーや、別にお礼言われるほどのこたぁしてないし気にすんな。俺の話が君の大事な奴に役に立ちゃいいが」
「きっと立ちますよ。彼ならどんな知識だって自分の物に出来ますから」
「ならいいけど。じゃあ、俺もう行くね」
「あ、なにかお礼を――」
そう言いながら、持っていた鞄の中に何か渡せる物がないか探ろうとする私の手は瀬呂君の言葉によって動きを止める。
「いいよいいよ。ありがとうの言葉が聞けただけで十分」
「え、でも」
いくら人使君の為とはいえ、忙しいであろうヒーロー科の人の時間を奪ってしまったのだ。
やはりそれ相応のお礼をするべきだろう、そう思う私の思考が読み取れたのか瀬呂君はんーと少し唸りつつ口を開く。
「俺にとってもこの時間は有意義なもんだったしなぁ」
「瀬呂君にとっても、有意義?」
彼が発した言葉をオウム返ししながら首を傾げる私に、瀬呂君は「そっ」と歯を見せて笑ってみせた。
いくら考えても彼の言葉の意味が出来ず首を更に深く傾げていると、彼は軽く頭を掻いた後言葉を放つ。
「こうやって口に出して言葉にしたら自分の状況も改めて理解できたし、それになにより――」
「なにより?」
「君みたいな可愛い女の子とお喋り出来たんだからな」
両手を頭の後ろで組みニカリと笑みを浮かべそう言う瀬呂君の言葉に、私が自身の顔に一気に熱が集まったのを自覚する。
こ、この人、なんつー事を平然と言ってのけるのか。ヒーロー科の男の子は皆こうなのか。
自身の脳裏に、体育祭の試合中に対戦相手の茨の髪をした女の子を口説き挙句瞬殺されたあの金髪の男の子の姿が思い浮かぶ。
あの時は彼だけが軟派な男の子かと思ったが、ここにも軟派な人がいたとは。
「じゃあそう言うことでっ。じゃね」
「あ、瀬呂君」
「また俺とお話しようね〜」
片手をひらりと揺らしながら私に背を向けスタスタと歩き出す瀬呂君の大きな背中を見つつ、伸ばしかけた手をため息とともに下ろす。
やられた。
彼はわざと心をかき乱すようなことを言って、お礼云々を躱されてしまった。
瀬呂君、食えないお人だ。
まぁお礼どうこうは次の機会にするとして、今はこの情報を人使君に伝えねば。
大事なメモ帳の入ったポケットを上から軽く撫で、その場を後にした。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2023年11月18日 17時
