【MHA】二つの口は愛を語りたい＝第三部＝ (ページ28)

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128話ページ28

時は流れ、場所も変わり、ここ雄英高校。
ヒーローの卵達をプロのヒーローに育てるこの学び舎で日々教鞭を執る一教師――相澤消太は珍しく焦っていた。

事の始まりは、夏休みに行う予定の林間合宿の準備をしていた相澤が一本の電話を取った事だった。

「――はい、こちら雄英高校です」

かかってきた電話の相手は普通科に在籍している仁口Aの保護者を名乗る女性からで、彼女はAはまだ学校にいるのかと問うてきた。
時間的に生徒達の下校時間はとっくに過ぎているのに加え、相澤は昇降口で帰宅しようとする仁口Aを目撃しあまつさえ少し会話をしていたのだ。
つまり、現在仁口が学校にいないことは明白である。

その事を正直にそのまま相手に伝えると、受話器の向こう側から彼女の戸惑いの声が上がる。

「そ、そうですか……今日は早く帰ってくると言っていたのですが……そう、なのですね」

気落ちしたように声のトーンを落としそう告げる彼女の言葉に、仁口との会話を思い返した相澤は確かにそんな事を言っていたなと心の中で思った。

しかし、相澤の知る限り仁口Aという女生徒はとても真面目で生徒であり、保護者に連絡無しに寄り道するような子ではない。
いったい、彼女に何があったというのか。

どことなく嫌な予感がした相澤は、念の為警察にも連絡した方が良いと保護者に伝えこの時は電話を切り受話器を置いた。

どうにも落ち着かない心を宥めようと深呼吸をする相澤の耳に、今度は自身のヒーロー活動用の携帯のバイブレーション音が飛び込んだ。
ポケットに入れていた携帯を手に取り通話ボタンを押すと、相手は警察からで内容はヒーローとしての要請であった。

「――分かりました。すぐに向かいます」

相澤の持つ個性"抹消"。
凝視している間は視ている相手の"個性"を消すことが出来る強個性を持つ彼は、その利便性からかよく要請の声がかかる。
今回も慣れた様子で自身の身の回りを片付け、指示のあった場所へと急いだ。

警察からざっと聞かされたのは、今世間を騒がせている連続児童行方不明事件について進展があったとの事だったが、それを聞いてから相澤の心の内はざわざわと妙な不快感が満ち満ちていた。

まるで、これから何か悪いことが起きるのではという予兆のようなソレと、今だ家に帰っていないという仁口の情報。
その二つが混ざり合い頭の中では最悪のシナリオが思い浮かぶも、相澤はそれを自身で否定しながら現場へと急いだ。