123話 ページ23
相澤先生がこうしてやって来たという事は、きっとこれから人使君の特訓が始まるのだろう。
だとしたら、私がここにいたら彼らの特訓の邪魔になるな。
「じゃあ私はこれで失礼しますね。特訓頑張ってね、人使君」
「あ、あぁ。気を付けて帰れよ」
「最近はここらでも
「そうなんですか? ――分かりました。気を付けて帰りますね」
先生の口から飛び出した"不審者情報"という言葉に驚きつつも私は笑みを浮かべそう言葉を返し、そのまま体育館を後にした。
人使君の差し入れ物と一緒にスクールバッグも持っていた為、そのまま昇降口へと足を向ける。
広く人気のない廊下を進みながら、先の相澤先生の言葉を思い返す。
"
幼い頃に過ごした養護施設の施設長だった、久万淦という男。
酷い異形差別主義者だった彼は、自身のお城であった養護施設で私を含めた異形の個性を持った子供達を痛めつけていた。
あの苛烈な暴力による痛みや苦しみは、今でも鮮明に思い出せてしまう。
無意識のうちにぶるりと震える肩を一撫でしながら、落ちつこうと深く息を落とす。
大丈夫。
あの男は既にしかるべき場所に収監されているのだ、もう過去の出来事なんだから恐れることなどない。
そう自分に言い聞かすように心の中で呟き、私は家路へと歩みを速めた。
＊
＊
＊
人使君に差し入れをしたあの日から数週間がたち、地獄の期末テスト期間を乗り越えた今日この頃。
朝ごはんを食べる為に一階へと降りると、誰かが見ていたらしいテレビの音声が寝ぼけた私の耳に飛び込んできた。
話の内容としては、十歳の男の子が昨日から行方不明となりこれで今月五件目の連続行方不明事件となった、というものだった。
「今回行方不明になった子、隣町の子みたいね。怖いわねぇ」
「そうだね。皆も夕方遅くまで一人で遊んじゃだめだぞ。それと、防犯ブザーはすぐ使える場所に付けときなさい」
朝食の準備をしながらテレビに耳を傾けていた園長夫婦の言葉に、施設の子供達は元気よく返事をしてみせた。
「あらAちゃん、おはよう。今のニュース聞いたかしら?」
「おはようございます。えぇ今しがた」
「そう。なら貴方も気を付けなさいね」
綺麗に盛り付けられた朝食を子供達に手渡しながら、副園長は心配そうな口ぶりでそう告げた。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2023年11月18日 17時
