103話 ページ3
「大丈夫ですよ。実を言うと、私の大事な友達に教えてあげたくてこうしてヒーロー科の方にお聞きしてるんです」
スカートのポケットにメモ帳を戻しつつそう告げると、瀬呂君は一瞬ぽかんとした表情を浮かべたがすぐにニマニマと笑みをこぼす。
「えっなになに!? それってもしかして恋のお話って感じ!?」
「ち、違っ! ――わ、ないです、けど……ちょ、いつまで笑ってらっしゃるんですか!」
いつまでもニマニマとした笑みを続ける瀬呂君に向かって、私は噛みつくようにそう言葉を放つ。
熱を持ち温度が上がってきた頬を冷え性な両手で包みなんとか温度を下げようと試みるが、その程度では中々熱は下がらない。
瀬呂君の言う通り、私は人使君に恋をしている。
幼かったあの日、初めて彼と出会ったあの日から……今思えば、一目惚れだったのだろう。
あの日からずっと、私はあの人に恋をしている。
彼の役に立ちたい、彼の喜ぶ姿が見たい、彼の笑う顔が見たい。
その思い達が私を突き動かしていく力の源なのだ。
やっとこさ落ち着きを取り戻し何度か深呼吸を繰り返した後、いまだに締まりがない顔をしている瀬呂君に顔を向ける。
「ゴホン……とにかく、私は彼の為に、彼の力になる為にはまだまだ知識が足りないんです。だから、他の人達よりも先を往く貴方達ヒーロー科の人に話が聞きたかったんです」
「ふぅんなるほどね――君に想われる彼氏さんは幸せ者だな」
「彼氏じゃないですし茶化さないでください。それに今の彼にとって私のこの想いは迷惑になるもの」
「迷惑? なんで?」
キョトンとした表情で首を傾げる瀬呂君に対し、彼へ向けていた視線を外しながら私は口角を下げつつ口を開く。
「彼は昔からの夢であるヒーローになる為に、一生懸命頑張っているんです。そんな彼の大事な時間をこんなことで奪うわけにはいかないんです」
「……君は本当に相手の事が大切なんだな。ま、こういうのは当人同士で解決すべきことだよな」
頭の後ろに手をやりガシガシと掻きながらそう言葉を紡いだ瀬呂君に、私は黙ったままもう一度口元に笑みを宿す。
立派なヒーローを目指す彼の邪魔はしたくないし、こんな気味の悪い個性を持つ私に想われたって人使君にとっても迷惑だろう。
自身の長い髪に触れながら、心の中でそう思う。
だからこそ、この気持ちを彼に伝えるつもりは毛頭ないし、この想いを彼が知る必要もないのだ。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2023年11月18日 17時
