【MHA】二つの口は愛を語りたい＝第三部＝ (ページ17)

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117話ページ17

それから、緑谷君達と他愛もない会話を交えながらの昼食も滞りなく進み、先に食べ終えた私と人使君は彼らに一言声をかけてから席を立った。
次は私と人使君も移動教室での授業だからか、その歩みはいつもよりほんの少し速かった。

人使君と肩を並べて歩きながら先の事を思い返すと、少々心配になってくる。
私は、緑谷君達の前でちゃんと笑顔でいられただろうか。と。

幼い頃のあの影響で無意識にでも笑顔を取り繕うことは得意にはなったが、あの時間での笑顔は久々に意識して作ったものだった。

しかし、轟君がそばを食べることに夢中あるいは周りに興味がないのか、彼は一心不乱にもくもくとそばを啜り会話にあまり入ってはこなかった。
まぁ会話をしなければ笑顔を作ることに集中できたから、それは良かったと思う。

笑顔を作る為に無理に上げ続けていたせいでほんのりと痛む口角を手で擦るのと同時に、視界に教室プレートが映り込んだ。
考え事をしていたら、着くのも早いものだ。

「あ、じゃあ私はここで」

人使君のクラスであるC組の教室前でひらりと片手を上げつつ笑顔を向けると、彼は「あぁ」と小さく零した。
いつもであれば、それから彼は背を向け教室へと入っていきその背を見てから私も自分の教室へと足を向けるのだが、今はどういうわけか目の前の彼は一向に足を動かそうとしない。

一体どうしたのかと様子を見ると、彼は目線をちらちらと彷徨わせながら何かを言いたげな表情を浮かべている。
何かあるのかと少し待ってはみたが、人使君は何かを言おうと口を何回かはくはくと繰り返すだけだった。
何回目かの開閉を最後に、彼は小さく息を吐いて目を閉じた。

「――、やっぱ何でもない」

「そう……」

「じゃあ」

彼の中で言葉が見つからなかったのかはたまた言うのを諦めたのか、人使君はそう言葉を締めくくると今度こそ自身の教室へと身を潜らせた。
その後姿を見送りながら首を傾げるも、自分の教室へと足を向けるのだった。