111話 ページ11
突然頭を下げた私の頭上から驚いたような声と慌てた様子で頭を上げるように告げてくる緑谷君の声が聞こえてくる。
申し訳ないながらも彼の言葉通りに顔を上げると、どこか困ったように眉を下げる緑谷君の姿が視界に入った。
緑谷君の表情から本当に困らせてしまっていたのだと再確認し、もう一度謝罪の言葉を口にすると彼は口元に笑みを浮かべながら口を開く。
「その、本当に気にしないでよ……えっと、仁口さんはどうしてそんなことを聞きたいの?」
「それは――」
不思議そうな顔をしてそう問うてきた緑谷君に、隠すようなことでもないと思い正直に全てを話して聞かせた。
全てを話し終えると、緑谷君は驚いたようなそれでいて納得したような顔で薄く笑みを浮かべた。
「そういうことだったんだ」
「えぇ、私が知る限りひと、心操君の洗脳を自力で解いた人はいないから君に話が聞けたらと思って――あ、もう無理に聞こうとはしないから安心してください」
「いや、いいよ。けど僕自身もあの時の事よく分かってなくって……」
他人よりも少しごつごつとした右手の人差指で頬を掻きながら、視線を少しだけ外した。
体育祭で見た折れた為変色していた彼の指はリカバリーガールが治癒してくれたのか、今では普通の皮膚の色に戻っている。
改めてリカバリーガールの個性の凄さを実感していると、緑谷君から「じ、実は」と声が飛んできた。
その声に相手の指へと向けていた視線を緑谷君の丸くて大きな両目へと向ける。
どこか決心したような表情を浮かべ私を見据えた彼は一二回深呼吸をすると、その口からゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「僕……個性発現が人よりも遅くて、発現したの中学の時なんだ」
「中学って、つい最近なんですね」
重々しい彼の口から放たれた思いもよらない言葉に、私は内心驚きながらもそう言葉を返す。
普通は四歳頃までに両親のどちらか、もしくは複合的な個性がその身に現れると言われているが、緑谷君のような事例は初めて聞いた。
いや私が聞いたことがないだけで、この広い世界を探せば彼のような事例もあるだろう。
「それで、まだこの個性を物に出来てないっていうか、自分でもよく分かってなくて……上手く言えなくて、ごめん」
「いえそんな、言いづらいことでしょうに教えてくださってありがとうございました」
眉を下げ申し訳なさそうな表情でそう言葉をはいた緑谷君に、私は頭を横に振りながらそう告げた。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2023年11月18日 17時
