102話 ページ2
都会の保須市に現れ世間を騒がしていたヒーロー殺しがプロヒーローによって逮捕され、世間に落ち着きが戻って来た頃、私は話を聞く順番として瀬呂君に一番に選んだ。
放課後になり私は、鞄を持ち一人で廊下を歩いている瀬呂君へと声をかける。
携帯をいじっていたのであろう彼は携帯から目を離し、ゆらりと体を反転させた。
ひょろりとした体躯にあっさりとした顔つき、男の子にしては少し長めの髪をした男子生徒――瀬呂君はキョトンとした表情で私を見下ろす。
「俺? えっと……」
「突然のお声掛け、大変失礼します。私、普通科の仁口と申します。以後お見知りおきを」
ニコリと笑みを浮かべ軽く一礼すると、瀬呂君はあぁと小さく息をもらしながら携帯をズボンのポケットに入れた。
大きな口ににんまりと弧を描きつつ瀬呂君は口を開く。
「これはどうもご丁寧に。知ってると思うけど俺は瀬呂。瀬呂範太ってんだ」
「存じております。体育祭でのご活躍拝見しておりました。職場体験の後お疲れの所大変恐縮なのですが、少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「いいよー、ってかそんな畏まった風に喋んなくてもいいって、俺ら同じ学年なんだし、な」
二ッと歯を見せて笑う瀬呂君に、微笑みを携えながらありがとうと言葉を返す。
人使君以外の人と言葉を交わすのは久々なせいか確かに少々大げさすぎたな、反省反省。
そこから彼と他愛もない会話も混ぜつつ言葉を交わし、私は着々と人使君の身になるような情報を得ていく。
私の想像通り、いや想像以上に彼の個性は汎用性の高いものだった。
高い粘着力で狭い通りに張り付けてトラップにするも良し、テープを敵に巻きつけ拘束するも良し、そして目当てだったテープによる高速移動も可能であるとのことだ。
本当に汎用性の高い個性だな、"テープ"って。
「――てな感じかな。俺が意識してんのは」
「なるほど、やはり身軽に動くにはウエートを上げ過ぎては駄目なんですね。ふむふむ」
普段から愛用しているメモ帳にさらさらと瀬呂君から聞きだした情報を記入していく。
よしよし、これは良いことが聞けたぞ。
メモ帳に書かれた文章に誤字が無いかをざっと目を通して確認していると、ふいに瀬呂君が話しかけてきた。
「てか、俺の話は男子なのが前提なんだし、仁口とってはあんま為になんねかったかもな」
たははと笑みをこぼす瀬呂君の言葉を聞きながらメモ帳をぱたりと閉じ、にこりと深く笑みを浮かべてみせる。
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作者名：長月シキカ | 作成日時：2023年11月18日 17時
