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156話 ページ6

「ところで君さぁ。随分と女好きみたいだね」

「っ!」


まるで世間話でもするかのように紡がれた雑渡のその言葉に、男はグッと息を詰まらせる。
雑渡の言うことに間違いはないが何故今そんな事を、と訝し気に思う男の脳裏にある記憶が蘇り、サァと全身の血の気が引いていった。


先日、馴染みの店から女を買って酌をさせた。
いつもの気に入りの女は他に客を取っていた為、代わりといって別の女が宛がわれたがその女が男の好みど真ん中であった。


丸く大きな目に幼さが残る顔立ちをしたその女は、今回が初めての客取りだという。
初心者特有のその初々しさの残る女の瞳に、一瞬で虜になった男は上機嫌なまま女に酌をさせた。


女が美味いと勧めた酒をあおりいい気分になった所までは確かに覚えている。
いや、今思えば……"そこまでしか覚えていない"――っ!?


色々と思い出そうとしてもまるで脳に霧がかかったかのようになってしまい、上手く思い出せない。
ダラダラと滝のように流れる汗を拭うことも出来ない男に構うことなく、雑渡は誰かを呼ぶように顎をクイッと動かした。


そして、その合図によって姿を現した人物に男は驚きから目玉が落ちんばかりに見開いた。


「お、前は――っ!」

「そう。先日お前が鼻の下を伸ばしていた女の正体は、私の優秀な部下だよ」


そう言う雑渡に背中を軽く叩かれる少年の顔は、確かに先日見た女と瓜二つであった。
違う所をあえて挙げるとするならば、まるで汚らしく醜いモノでも見るかのような鋭く冷たい眼で男を睨みつけているというところか。


「お前がぺらぺらと話してくれたおかげで我々が得た情報の裏付けが取れた。その点だけは感謝するよ」


心の底から馬鹿にしたような色を滲ませたそんな声色に、男はギリッと奥歯を強く強く噛みしめる。


「(まぁ、伊作君が特別に調合してくれた特製自白剤を酒に混ぜたからもあるんだけどね)」


誰にも知り得ない心の中で尊奈門はそう零す。
情報を聞き出す為にあえて強い酒を何杯も飲ませていたが、あの状態なら自白剤無くても情報は聞き出せたかもしれない。


しかし、あの男。
酒が回りだしてからはベタベタベタベタと体を触りまくってきて、気持ち悪いことこの上ない。
その気持ち悪さを我慢しながら笑みを絶やすことなく任務を遂行した尊奈門であったが、任務中に何度手が出そうになったことか。


無事任務を完遂した尊奈門は、自分で自分を褒めてやりたいものだと小さく息を吐き零した。

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長月シキカ(プロフ) - mozomozoさん» コメントありがとうございます!レスが遅くなってしまい申し訳ありません。この作品ではキャラの心理描写に気をつけながら作り上げたので、mozomozo様のお言葉とっても嬉しいです^ - ^閲覧感謝です♪ (7月13日 17時) (レス) id: f960b2a2a7 (このIDを非表示/違反報告)
mozomozo(プロフ) - とっても素敵なお話でした。何より心理描写が綺麗で本当に惹き込まれました。 (7月1日 2時) (レス) @page30 id: c5d40106d1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:長月シキカ | 作成日時:2022年10月28日 0時

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